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妊娠中の高血圧は治療すべきか 妊娠高血圧症候群は、定義の変更により妊娠前から存在した高血圧も含むことになり、産科の現場で治療する機会も増加してきている。ただ、妊娠中にどこまで治療すべきかの判断は難しく、とくに正期産域では分娩を急ぐことのほうが重視されることが多い。 それでも、妊娠前から高血圧を持つ女性が妊娠のチャンスを得るためにも、降圧薬は必要な薬剤である。内服が初期から最も安全なのはメチルドパ水和物であり、治療を急がない場合には最初に選択される。ラベタロール塩酸塩は海外では注射薬もあり頻用されるが、新生児管理ができる施設でないと難しい。ニフェジピンは妊娠20週以降で使用可とされているが、それ以前でも胎児形態異常の報告は少なく(他のカルシウム拮抗薬も)、妊娠前からの管理例などで説明と同意の上で使用することがありうる。 降圧目標は、妊娠前からの高血圧であれば140/90mmHgを超えないようにするが、妊娠中の発症では重症域の160/110mmHgに入らぬよう、しかし140/90mmHgを下回らないよう管理する。血圧の下げ過ぎは胎児機能不全につながる危険がある。分娩前後の高血圧は要注意 近年、妊娠末期や分娩中の高血圧緊急症が問題視されている。これまで考えられてきたよりも脳卒中(多くは出血)が多いことがわかってきており(母体死亡の原因として出血に続く2番目)、その予防には高血圧緊急症を抑えることが重要だからである。他方、同様の症状である子癇発作に対して降圧療法が効果を示すかどうかについては異論もあるが、再発予防の特効薬である硫酸マグネシウム製剤(降圧作用はないので本稿では触れない)を使いつつ、血圧が高ければ降圧も図るのが一般的な対応だろう。高血圧緊急症の薬剤選択は、歴史の長いヒドララジン塩酸塩が用いられてきたが、近年は脳出血に対する禁忌もなくなったニカルジピン塩酸塩のほうが用いやすく、効果も的確である。分娩施設の救急カートにシリンジポンプとともに用意しておきたい。産後の管理も大切 産後1カ月までは母体の疲れもたまりやすく、血圧の変動は大きい傾向にあるため、入院中にいったん改善しても再度上昇する例がよく見られる。退院後も血圧自己測定の習慣をつけ、退院の段階で血圧が高い妊婦では降圧薬(ニフェジピンが選択されることが多いだろう)を続行しながらフォローすることも必要である。授乳はほとんどの降圧薬で問題ないとされる1)。1)日本高血圧学会.高血圧治療ガイドライン2014.http://www.jpnsh.jp/download_gl.html13 妊娠高血圧症候群ペリネイタルケア 2019 新春増刊 51第1部くすり大解説第2章妊娠期のくすり

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