皆さんは分娩をどのように勉強されましたか? 勤務や施設によっては、初めて介助したお産が帝王切開分娩だったという人もいるでしょう。しかし、まずは正常分娩を学び、分娩の生理を知ることで、異常分娩の病態を理解することができるようになったのではないでしょうか? 緊急帝王切開術や産科手術があると振り返りを行うものですが、正常分娩がうまくいった理由を考え、解釈することが重要であり、分娩管理の上達への近道だと思います。 受精・着床・妊娠・分娩・産褥は、生物個体として非常に特殊な現象です。目の前に生まれてきた赤ちゃんは、まさに神秘であり、奇跡の連続の結果だといえるでしょう。 周産期における疾患、合併症を理解するには、正常経過はどうしてうまくいっているのか、どのようなことが正常経過で起こっているのかを知ることが、疾患、異常をより深く理解する近道です。そう、分娩を勉強した方法と同じなんです。生体は常にバランスを保っています(恒常性を保つといいます)。妊娠という特殊な環境に母体と胎児はうまく適応し、バランスを取りながら、多くは無事に出産を終えます。この適応のバランスが崩れたとき、疾患として顕在化してきます。すなわち生理を知り、そのどこが破綻しているのかが分かると、疾患に対する理解が深まり、対応のみならず、正常からの逸脱にも早く気付くことができるようになるでしょう。また、「この疾患だ」と思っていても、病態的にいつもと違う変化に気付くことができれば、ピットフォールに落ちることも回避できます。基本を知らずに応用はないのです。 今回の企画は、目の前の事象にとらわれ、ないがしろになりがちな生理を分かりやすい図解で説明し、関連する疾患について、その病態生理のどこが破綻して起こるのかを具体例を挙げて解説します。本書は最近流行のハウツー本ではありませんが、読み終えたとき、知識と理解が皆さんの血となり肉となり、いざというときの応用にきっと威力を発揮してくれるでしょう。さあ、本物の知識、理解と知恵を付けましょう!昭和大学医学部産婦人科学講座 准教授松岡 隆はじめに
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