第1章妊娠初期妊娠中の子宮頸がんとワクチン接種奈良県立医科大学産婦人科 准教授川口龍二かわぐち りゅうじ 子宮頸がんは、2017年度の国立がん研究センターがん情報サービスのデータ1)によれば、1年間で11,283人が罹患し(前がん病変除く)、2,795人が死亡している。近年では、若年女性での罹患率の増加が著しく、晩婚化や出産年齢の高年齢化によって、妊娠年齢と子宮頸がん発症の年齢とが重なる傾向にある。現在わが国では、妊娠初期にスクリーニング検査としてほとんどの施設で子宮頸部細胞診が行われており、これを契機に子宮頸がんやその前がん病変(上皮内がん、高度異形成)が発見されることも多い。子宮頸部細胞診で異常を認めればコルポスコピーを行い、前がん病変以上が疑われれば生検(組織診)を行う。子宮頸がんの診断がついた場合、内診や画像検査により進行期を確定し、治療方針を決定する。 『子宮頸癌治療ガイドライン2017年版』2)によると、妊娠中に、組織診で前がん病変までであれば経過観察を行い、分娩後に再評価を行うとされている。ⅠA期(微小浸潤がん)以上が疑われる場合には、診断確定のために妊娠中でも子宮頸部円錐切除術を行う。妊娠中にⅠB期以上の浸潤がんと診断された場合、診断された妊娠週数により治療方針を検討する。胎児の子宮外生存が可能な週数であれば、胎児を娩出した後、子宮頸がんに対して標準治療を行う。子宮外生存不可能な週数であれば、症例ごとに方針を検討する。また、リンパ節転移陽性例やⅡ期以上の進行がんであれば速やかに妊娠を終了し、標準治療を行うことが考慮される。児の娩出方法については一定の見解が得られていないが、子宮頸がんの予後に影響を与える可能性があるため、帝王切開術が望ましいと考えられている。 子宮頸がんの多くは、ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus;HPV)というウイルス感染が原因と考えられている。HPVはありふれたウイルスであり、性的接触のある女性の多くは感染機会があるとされている。性的接触によりHPVは子宮頸部に感染するが、子宮頸がんを発症するのは1%以下とされている。HPVワクチンは、代表的なハイリスクHPVである16型と18型が原因の子宮頸がんの発症を防ぐことが可能である。『産婦人科診療ガイドライン:婦人科外来編2017』3)では、安全性・有効性が確立していないため、妊娠中にHPVワクチンを接種しないとしている。授乳婦に関しては、ワクチン接種の有益性が危険性を上回ると判断される場合にワクチンを接種できるとしている。1)国立がん研究センターがん情報サービス.子宮頸がん.https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/statistics_p01.html[2020.2.20]2)日本婦人科腫瘍学会編.“妊娠合併子宮頸癌の治療”.子宮頸癌治療ガイドライン2017年版.東京,金原出版,2017,168-77.3)日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会.“CQ207HPVワクチン接種の対象は?”産婦人科診療ガイドライン:婦人科外来編2017.東京,日本産科婦人科学会,2017,63-7.引用・参考文献38 ペリネイタルケア 2020年 夏季増刊
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