75❶寝る(臥床)「寝る(臥床)」とは日常生活において休息を取るときの至って自然な姿勢で、人間にとって害のない体位のように考えがちです。しかしながら、ベッド上で療養生活を送る人にとって「臥床」という行為は疾患やその治療のために自由な姿勢がとれない結果である場合も多く、長時間の臥床が体のさまざまな機能に対して障害を起こす原因にもなります。 ここでは、臥床を仰臥位、腹臥位、側臥位、ベッドアップ30°の体位と、循環や呼吸、褥瘡、不動による合併症を組み合わせて考えます。仰臥位と循環 循環動態は心臓、動静脈と毛細血管からなる閉鎖回路を血液が循環することで保たれています。血液には重さがあるため、体位の変換により循環動態は大きく変化します。 心臓(左心室)から出た血液は動脈、組織の毛細血管を通り、最終的には大静脈に集合して心臓(右心房)に戻ってきます。戻ってきた血液は肺で酸素化された後、再び全身に送られます。 姿勢を立位や座位から仰臥位に変換すると、下肢に貯留していた血液が心臓に戻りやすくなり、静脈還流量が増加します。静脈還流量の増加によって心筋は伸張され、張力を発揮しやすくなり、1回拍出量が増加します1)。そのため心拍出量が増加し、心拍数が低下しますが、血圧にはほとんど影響がないとされています2)。一方で、腹腔内に巨大な腫瘍が存在する場合や妊娠末期の子宮がある場合は、下大静脈の圧迫により血圧が低下する場合があります3)。⿎長期臥床に伴う障害 上記の循環動態の変化は、短期的な臥床で生じる病態でしたが、長期臥床では大血管の圧迫や血液分布の変化以外の要因で障害が生じます。臥床が長期になるほど、健康な成人であっても循環血漿量が減少し、心臓の1回拍出量や最大酸素摂取量が低下することが知られています4)。また、左心室の形状も変化(リモデリング)し、25歳前後の成人が2週間の臥床した場合には20%程度の左室拡臥床を考える
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