編者のことば「この手術、初めてつくのでよろしくお願いします」術前にそう言って手洗いに臨むナースに何回か遭遇したことがある。このセリフは、“うまく器械出しできなくても勘弁してくれ”という意味なのか、それとも“感染リスクを上げてでもゆっくり手術をしてくれ”という意味なのか、いずれにせよ到底プロとは思えないセリフである。家族が手術を受けるときに、このような看護師に入ってほしいと思うだろうか? 宇宙飛行士が初めて大気圏外に飛び出すとき、「初めてなのでよろしくお願いします」とほかのスタッフに言うだろうか? 国家資格を持つ医療者には禁句であるとまず知ってほしい。 手術はいわずとしれたチーム作業で、それぞれが自分のミッションに取り組んだ結果として一つの成功がある。宇宙飛行と違い整形外科手術の多くは2~3時間以内に完了し、モニターや直接視野で進行具合もみな同様に確認できる。基本手順が決まっており、医師は術前に病態を把握し計画を複数準備し、看護師も計画ごとに必要な器械出し手順をマスターする。そこには初めても5回目もない。心配なら外回り看護師のヘルプを依頼するなど自領域のミッションを固める責任がある。 スムーズに手術が進むかどうかは器械出し看護師の「先読み(サキヨミ)」にかかっている。必要な器械を言われてから選ぶのではなく、使うものを予測してスタンバイするリズムを体得しよう。サキヨミできるナースの見分けかたは簡単で、「器械台の上がきれいに整理され、次の器械がすぐに出てくるかどうか」である。使用した器械が術者から返されると、以降使う予定がないものは遠くに、再度使う器械は術者の近くに再配置され、サキヨミナースの器械台からは実にスムーズに器械が手渡される。本書を読みながら単に手術手順を覚えるのではなく、器械台にどう並べ変えるか、ぜひ自ら手順のタイムライン動画をイメージしながら自分自身の最強マニュアルを作り上げてほしい。手術方法や器材は年々進歩、変化するが、各自のミッションを果たすチーム作業であることは変わらない。術者から「スムーズに手術ができました。お疲れさま」と言われたとき、「実はこの手術の介助、今日が初めてだったんですよ」と得意げに話してほしい。その傍らに本書があることを期待したい。今田光一 社会医療法人若弘会若草第一病院 スポーツ整形外科部長3OPE NURSING 2020 春季増刊
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