最近、父親が体表面の手術を全身麻酔で受けました。85歳を超えており手術の結果や術後合併症のことが心配でしたが、無事退院しました。病院では術前に丁寧に手術、麻酔、看護について説明していただいたこと、手術室入室から麻酔導入まで優しくしていただいたこと、術後も手厚いケアをしていただいたことにとても感謝しています。もともと日常生活動作や認知機能に異常なく、基礎疾患に軽度の高血圧と肥満がありましたが、手術侵襲は大きくないのであまり心配しませんでした。ただ術後に排尿できなくなりました。私は麻酔科医として術後合併症についてよく知っているつもりでしたが、手術や麻酔で説明できない神経因性と思われる病態で退院後も膀胱カテーテルを留置する生活が継続する可能性は、術前に予想していませんでした。このような原因がはっきりしない高齢者の術後の神経因性膀胱は、重篤な合併症でないとして医療者側はあまり重要視していないのかもしれません。ただ本人にとっては重大なことで、退院して2~3カ月は気持ちが落ち込んでいました。その後父親は、頻尿で夜もゆっくり眠れない同年代が多いことを知り、逆に膀胱カテーテルが入っているほうが楽だと思うようになったようです。 現在の日本は少子高齢化と人口減少のため、住まい、医療、介護、予防、生活支援を一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築が目標です。その中で手術を行う急性期病院は、重症患者を受け入れるとともに、術後合併症を減らして在院日数を減らすという難しい舵取りが求められています。このため手術室看護師の役割は、手術室内だけでなく、術前や術後も介入して、手術を受ける患者さんの周術期看護を担う仕事に拡がっています。私の父親の例のように、手術室内や術後急性期だけ見ているとわからなかったことが、周術期全体を見ると明らかになるかもしれません。2020年から特定行為研修の術中麻酔管理領域の領域別パッケージ研修が始まりました。さらに現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により各医療施設は大きな影響を受けています。看護師の皆さんには、変化し続ける医療情勢に対応する力が求められています。本書がそのお役に立てれば幸いです。 本書の基礎疾患ごとの周術期看護のポイントについて、各専門の麻酔科医の先生方に執筆していただきました。ご執筆いただいた先生方にこの場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。2020年7月兵庫医科大学 麻酔科学・疼痛制御科学講座 主任教授 廣瀬宗孝編者のことば3オペナーシング2020年秋季増刊号
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