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はじめに 新生児の医者になって25年、このたび新生児医療を離れて薬学生の教育に仕事を移しました。新生児、小児の医療に関心を持ち、薬の専門家として、より多くの薬剤師が医療の現場に現れることを期待して暮らしています。 これまでの間、香川(医科)大学小児科教授の故・大西鐘壽先生と伊藤 進先生の下で小児・新生児の薬の問題に取り組んできました。 2000年ごろには、大西先生が厚生(労働)省に足しげく通われて、「治療上の見捨てられた孤児(therapeutic orphan)」である、小児の薬の問題に声を上げられました。そうやって、ようやくできた薬の適応外使用解決のための細い道筋のひとつの「小児薬物療法検討会議」、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」のために、伊藤先生が週末にほぼ休みなく検討資料をこつこつと作成しておられました。 日本未熟児新生児学会(現日本新生児成育医学会)の作成した、適応外薬検討リストからいくつかの薬で適応症、用法・用量の設定がなされた過程をそばで見てきた者として、赤ちゃんや子どもへ使用する薬を適切に供給し、安全で有効に使用できるためのデータを作っていかないといけないことを切実に感じています。 本編では、薬物療法を中心に過去からの疾患概念、治療変遷と最近の治療と位置付け、問題点などが分かるような記述をしていただきました。薬の項目では、主に急性期の治療薬を中心に、適応外使用の現状が分かるような体裁をとりました。一部は、有効で安全であるというデータがないものまで取り上げました。20年以上にわたり、代替薬がない、より有効な薬、より安全な薬をリストして日本で使用できるように努力をしてきた結果の現状です。 私自身は、フェノバルビタールの筋注製剤を500gの超低出生体重児に使用して、大腿に大きな傷跡を残した経験をしたことから、静脈注射が可能な製剤の治験に関わることができました。目の前の疾患や患児に対し、適切な治療や薬を選択して、適切な使用を行うのは当然のこととして、いかに有効で安全に使用できるかといったデータを系統的に収集して、適切な情報を発信するかが大きな課題であると考えています。 本書が薬の使用に際し、どんな根拠があって(あるいは根拠なしに)使用しているのか、より安全な使用のためにはどうしたらいいのかを皆さんが考える一助になればいいと思っています。適切な薬が、本当に必要とされる赤ちゃんへ適切に使用されることを願っています。 2018年9月摂南大学薬学部教授河田 興

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