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編者のことば 循環器領域の診療は難解で、取っ付きにくい、できれば避けたいと公言する医療スタッフは少なくありません。特に、ナースをはじめとするメディカルスタッフに、その傾向が顕著です。生身の全体を診る必要性からかもしれません。循環器領域特有のものの考えかたをつかむには、4つの引き出しがあるように思います。  まず、病態の「2つの大きなヤマ」を意識します。病態は常に、原因はともかく結果としてこんな「状態」になっているというヤマと、その状態をきたす「原因および修飾要因」のヤマで構成されます。治療の矛先がどちらの論点にあるかを意識付けします。 次に、治療の目的です。循環器領域の治療は、症状をよくする「目に見える治療」と予後を改善する「目に見えない治療」に分類できます。例えば心不全において、急性期ではまず患者さんの苦痛を取り除き、時には命を救う管理が求められます。一方、その場を乗り切っても、水面下での心不全の進行は収まりません。「目に見えない治療」は、神経体液性因子による病態の進行を抑制し、予後を改善させます。急性期に強心薬で救命され、慢性期にβ遮断薬で命を長らえる、真逆な薬が1人の患者さんの時間軸に共存します。 3番目に、効果と副作用という光と影の論点です。実臨床の現場では、リスクとベネフィットというバランスシートのもとで、治療の是非を判断します。多くの循環器薬は予後改善という実感し得ない(目に見えない)効果をめざし、一方で、実感できる(目に見える)のは唯一副作用というものも少なくありません。損得勘定を客観視するとともに、副作用をきたさぬ知識とスキルが求められます。 最後に、治療介入の迅速性です。今すぐに動かねばならない課題なのか、それともじっくり腕を組んで考える時間的猶予があるのか。急ぐ案件では、理屈で攻めるだけでなく、イメージとしてとらえたり、パターン化した行動が望ましい場合もあるでしょう。  以上のような視点に立ち、循環器診療でナースが触れることの多い薬剤についてわかりやすく説明を加えました。特に現場の視点に重きを置き、今後の循環器領域を背負う期待の先生方に執筆をお願いしました。わたしが心から尊敬する猛者たちです。日常の循環器診療に、本増刊をお役立ていただければうれしい限りです。北里大学北里研究所病院 循環器内科 教授 猪又孝元

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