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脳神経外科速報2017年臨時増刊 105操作のためには,手や腕が安定するような姿勢を保っていることも大前提である. 特に,顕微鏡下で使用するピンセットに求められるのは,本体を把持した際の安定性,繊細な先端部の開閉が可能であること,組織の状態を指先で感じられることである.ただし,繊細な開閉や組織の状態を感じることのできる「やわらかさ」とともに,閉じた際のねじれを起こさない「硬度」も求められる.また微細な操作を行う先端部には,細さと同時に把持力・強度も必要になる.行われる手術操作や術者の好みにより要求は異なるが,ときに相反する要素を満たすためさまざまな材質,形状のピンセットが開発・製造されている.脳神経外科領域の顕微鏡下手術で頻用される,アドソン鑷子とマイクロピンセットについて以下に述べる. アドソン鑷子(図1)は,持ち手部分に対し先端部が非常に細い特徴的な形状をしたピンセットである.その形状により表層の細かな操作に向いており,一般的には閉創時に皮膚などを把持するために用いられる.脳神経外科手術では,筋組織や硬膜の把持などにも使い勝手がよい.ピンポイントでより強く組織を把持できる有ゆう鉤こうのものと,無む鉤こうのものがある.無鉤タイプでも組織を確実に把持しつつ組織の挫滅防止のため,把持面には溝が設けられている.販売されているものは,おおむねどれも形状に大差な2アドソン鑷子 ピンセットは,指では困難な精密作業を可能にするための道具である.ピンセットは紀元前3000年ころの古代エジプト文明より存在し,もともとは主にトゲ抜きや脱毛といった用途で使用されていたようである.1世紀ころの古代ローマ遺跡からは外科用ピンセットが発見されており,19世紀になって,現代のものと近い形状のピンセットが解剖や手術において利用されるようになった.その構造は先端の開閉が可能な一対のshaftからなり,弾性を有するハンドル部後方で一体となったものである.基本的な構造は,長い歴史を経ても大きくは変化してこなかった. 現在の脳神経外科手術では手術顕微鏡下において,剥離,切開,止血,微小血管吻合などの繊細な操作が行われるが,その際にピンセットはペンホルダー方式と言われる持ち方で使用される.つまり,親指の先と,人差し指および中指の先を一対のアームの表面に添えながら,人差し指の付け根付近で一対のアームの下側を支える持ち方である.この持ち方の場合,一対のアームを4点で保持していることになり,手のひらで握るpower gripに対し,precision gripとも呼ばれる.顕微鏡下での微細な操作では,基本的に指先のみを動かすことになる.すなわち指先で持ち手部を微調整し,先端部の開閉・操作を行う.この指先による安全で確実な手術1はじめに手術器具と関連機器5章2ピンセット(鑷子)内野晴登 / 黒田 敏 富山大学
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