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脳神経外科速報2017年臨時増刊 113 これまでバイパス手術で用いられてきたマイクロピンセット,クリップ,その鉗子にはそれぞれ一長一短があって理想的なものはないと,少なくとも自分は考えていた.2012年春,富山大学に赴任した際,たまたまシャルマン社(福井県鯖江市)の皆さんが新しく開発した顕微鏡手術用のハサミを紹介しに来てくださったので,ここぞとばかりに,これまでの持論を展開して,素材や形状から見直して少しでも理想に近づけたマイクロピンセット,クリップ,その鉗子を開発することをシャルマン社に提案させていただいた. マイクロピンセットには10-0や11-0ナイロン糸の針をしっかり把持するとともに,鑷子先端の微妙な感覚を十分に指に伝えるための柔軟性が必要である.そこでマイクロピンセットの素材には,シャルマン社が眼鏡フレームで多用しているバネ性チタン合金を使用することで,手の把持力を利用して針を「点」ではなく「面」で把持できるように工夫した.鑷子先端は0.1あるいは0.2 mmにするとともに,先端内側の把持面にレーザーによる微細な罫書線を描画することで,軽い把持力でも組織や糸をしっかりホールドできるようにした(クロスMAX仕様).さらに,多数回の使用を経ても極細の先端がシザリングしないように先端ズレ防止機構(ACCU TIPS)を採用した(図7).この黒田式マイクロピンセットは,動脈壁が薄いもやもや病のバイパス術を円滑に完遂することを主眼として開発したので,その構造は極めて繊細であり,他診療科ではリンパ管の吻合などの際に好評を博していると聞いている. バイパス手術の際に使用するクリップには,これまでのものよりも柔軟な素材が適していると考えてゴムメタルを採用するとともに,動脈を「面」で圧迫できるようクリップの断面を「円」ではなく「四角」とした.クリップの有効長を4.0 mm,6.0 mmの2種類とした.長いクリップはSTAやM2など太めの動脈の遮断に,短いクリップはM4など細めの動脈の遮断に用いることで,バイパス術で使用するほぼすべての動脈に使用可能とした.また,クリップを保持する鉗子には,看護師から術者への受け渡しを容易とするためにロック機構を設けるとともに,クリップを広げ過ぎて壊さないように,クリップホルダー内側にストッパー機構を追加した(図8).これまでに,もやもや病を含む約120件以上のバイパス手術に用いてきたが,明らかな問題は発生していない.バイパス手術のためのマイクロ鑷子,クリップを新たな素材やコンセプトを用いて作製した.これらの開発のプロセスでは,医療者の要望を企業側に明確に伝えることが肝要であることを学んだ.黒田式マイクロピンセットとクリップ,クリップ鉗子の開発黒田 敏 富山大学手術器具と関連機器5章開発 話
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