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私が脳神経外科の門を叩いて数年後の2002年,Lancet誌にISATの研究結果が報告されました.「血管内手術,開頭より有効」という新聞の見出しは衝撃的で,一般の患者さんにも「血管内」というキーワードが発信されるようになったように思います.それから15年以上たった現在では,技術や治療デバイスはさらなる進化を遂げ,患者さん側から血管内治療の希望を告げられることはもはや珍しくありません. 血管内治療が台頭していた当時,新規治療の血管内治療と開頭手術とは,しばしば対立軸として議論されました.「開頭 vs 血管内」が学会シンポジウムで毎度のように取り上げられ,それぞれの治療の専門家によって優劣に関する活発な議論がなされました.しかし,最近では両治療に精通する次世代型の血管外科医が出現し,対立軸のみでなく,治療選択の最適化に関する議論がされるようになってきたように思います. 開頭と血管内の両者を極めようとする次世代型の脳神経外科医は,巷では「Hybrid Neurosurgeon」と呼ばれているようです.しかし,両治療を完璧に使いこなすことは本当に可能なのでしょうか? プロ野球の世界では,投手と打者の両者,いわゆる「二刀流」を実行できるのは,世界的にも大谷翔平選手ただ一人です.医療の世界では,脳神経外科医個人が「二刀流」を目指したいがために患者さんにリスクを負わせるのは好ましくありません.自分一人で治療を完結できなくとも,場面場面における両治療法の適性を十分に理解し,最適な治療選択を患者さんに情報提供できるのが,真の「Hybrid Neurosurgeon」ではないかと,最近個人的に考えています.本テキストが,そのような「Hybrid Neurosurgeon」の育成に少しでも役に立つのであれば幸いです. 本テキストでは,両治療方法を見開きページに収めるという,ある意味無謀な試みをしました.全体を通じて1つのセクションを2名の執筆者に担当していただく前代未聞な注文に対し,激務の合間を縫って真摯にご執筆くださった先生方に,この場を借りて御礼申し上げます. 最後に,監修の労をとっていただいた大宅宗一先生(埼玉医科大学総合医療センター),脳神経外科への入門から現在に至るまで開頭手術をご指導いただいた冨永悌二教授(東北大学),血管内治療をご指導いただいた松本康史先生(広南病院)に感謝申し上げます.東北大学脳神経外科遠藤英徳序文
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