私の手術論350 脳神経外科速報 vol.29 no.4 2019.4.釣りの工夫,手術の工夫1【菱川】今日は昭和大学の水谷徹先生をゲストにお招きしてお話を伺いたいと思います.水谷先生は解離性脳動脈瘤の病態研究や複雑な動脈瘤の直達手術でも大変ご高名で,私も目標にさせていただいている先生の一人です. 水谷先生はたいへん多趣味と伺っていますので,異例ではありますが,まず趣味の話からお聞かせいただいてもよいでしょうか?【水谷】そうしましょう.私は小さいころから山とか渓流といった自然が好きで,同時に野球をはじめとしたスポーツも大好きでした.入学した東京大学では鉄門野球部に入り,4番バッターとして活躍する一方,全学の釣り部にも入っていました.釣りはルアーフィッシングにはまって,中でも岩魚に魅せられました.静かな新緑の山の源流で川に浸りながら,他のことは何も考えないで魚だけ釣ることを考えてやるんです.至福のときですね.ルアーは海外でもやり,タイメン(アムールイトウ)やサーモンなどの大物も釣り上げました. 山では妻や家族と一緒に,山菜採りやきのこ狩りにも出かけます.妻は宝塚歌劇団の月組出身で,学生時代に知り合って卒後まもなく結婚しました.明るく前向きな性格で,その明るさにいつも支えられてきましたね.今は振付家として活動していて,会津でバレエ教室も主催しています.長女はスキーが得意で,モーグルスキーヤーとして全日本ナショナルチームにも10年所属し,ワールドカップにも出場して海外転戦もしていました(現在は引退).長男も野球とスキーが好きで,スキーでは東医体個人GS 2位の成績を残しました.今は整形外科医として活躍中です. バブル期には家が買えなくてずっと官舎暮らしでしたが,総合会津中央病院(現・会津中央病院)から東京に戻ってくるタイミングで磐梯山のふもとにログハウスを買い,自分で囲炉裏も作りました.休日には家族みんなで出かけて行き,山スキーやオフロードバイクを楽しんだり,釣った魚を自分でさばいて焼いて,採ってきた山菜と一緒に食べたりしていました.生ハムやベーコンなどの燻製も自分で作っていましたね.【菱川】大変充実していますね.趣味と手術と相通じるものは何かありますか?【水谷】例えば釣りだと,この相手にはどんなルアーがいちばん有効か考えて準備するし,釣っているときはどの辺に魚がいてどうルアーを流せば釣れるか考え,工夫しながらやっています.作戦を考えて工夫するということは,手術と同じだと思いますね.救急部から脳外科へ2【菱川】それでは,大学卒業のところから教えてください.先生は最初,脳外科ではなくて救急部に入られたと伺いました.【水谷】ええ.もともと脳のことが好きで,そもそも脳はきれいだし,脳のネットワークにも興味がありました.当時はCTとかMRIが出始めた時代で,脳外科は将来性もある分野だと思っていました.ただ実際に話を聞きに行ったところ,まず全身管理がきっちりできないと駄目だなと思って,救急部に入ることにしました.もともと東大の救急部は脳外科の先生が作ったところで,東大鉄門野球部の先輩の有賀徹先生(後の昭和大学教授・病院長,現・労働者健康安全機構理事長)から誘いを受けた縁もありました.当時は頭部外傷もたくさんあった
元のページ ../index.html#6