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基礎知識と実際の工夫 腫瘍による内頚動脈あるいは穿通枝のencasementは,大型の前頭蓋底・傍鞍部髄膜腫の摘出における最大のリスク因子であるといってよい.万が一内頚動脈を犠牲にするような事態に陥った場合に備えて,術前に前交通動脈や後交通動脈を介した動的な側副血行の評価が必要となる.3D‒CT血管撮影やMRAなどの画像診断の進歩により,髄膜腫を含む頭蓋底腫瘍においても脳血管撮影は必須ではなくなってきているが,依然として内頚動脈が絡む腫瘍における動的情報を得るには脳血管撮影しかない. 内頚動脈をencaseする腫瘍の場合は,腫瘍から離れた位置でA1あるいはM1/M2を捉え,これらの正常動脈を腫瘍側へと追って露出していく.腫瘍内に埋もれる動脈をやみくもに探すことは避けるべきである.腫瘍と動脈の癒着が軽度なら,腫瘍の遠位から動脈を追いかけると腫瘍が動脈から浮いてスペースが生まれる.このスペースを利用して袋とじを開けるようにして動脈から腫瘍を剥離する(TIPS参照).反対に,内頚動脈の腫瘍より近位側の確保は,大型髄膜腫では得てして難しい.しかしそのような場合でも,硬膜輪を貫通する部分の内頚動脈の位置が偏位することはない.つまり前床突起を削除して視神経管を開放することにより,硬膜輪近傍(硬膜外か硬膜内かは症例による)で腫瘍より近位側の内頚動脈を確保することが可能である.動脈と腫瘍の癒着がやや強いと感じたら,剥離する動脈の近位側と遠位側を確保して一時遮断できる状況を整えてから剥離を行うべきである. 後交通動脈や前脈絡叢動脈からの穿通枝温存の難易度は,腫瘍の性質によってさまざまである.基本的には,腫瘍の発生母地の方向へ腫瘍を引き出すように摘出するとこれらの穿通枝も比較的温存しやすい(図1a).ただし,穿通枝が腫瘍内を貫通している場合は,内頚動脈とこれらの動脈によって区切られる区域(コンパートメント)を意識して摘出し,穿通枝越しの摘出操作は避ける(図1b).剥離中に穿通枝の血流が十分保たれているかは肉眼では判断できない.モニタリングの併用も有効である.明確なエビデンスはないが,薄い塩酸パパベリンで穿通枝を間欠的に湿らせるのもよい.それでもなお遅発性に攣縮が生じ,脳梗塞をきたすこともある.腫瘍と穿通枝の剥離の難易度は腫瘍の性質に依存すると述べたが,巨大下垂体腺腫は多くの場合,穿通枝と腫瘍の癒着が髄膜腫より強158 脳神経外科速報2019年増刊Q084A内頚動脈・穿通枝を巻き込んだ腫瘍への対応のポイントは?万が一のトラブルに対応するため,術前に側副血行に関する動的情報を把握正常動脈からたどる動脈の近位と遠位で一時遮断できる術野を作ってから剥離穿通枝の保存は腫瘍のコンパートメントを意識して腫瘍を引き出す術前から内頚動脈が狭窄している症例では,剥離を断念する勇気も大切12345

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