鹿児島大学大学院医歯学総合研究科脳神経外科教授吉本 幸司 脳神経外科手術の合併症は,脳神経外科医であれば誰でも避けたいものです.合併症を回避するにはどのようにしたらいいか,また意図せずして合併症に遭遇した場合はどのように対処したらいいか,皆さん常に考えながら日常の手術に立ち向かっていることと思います.今回,「脳神経外科手術合併症の回避・対処法」と題して,主には脳神経外科専門医取得前後の読者を念頭に置いた増刊号を企画しました.疾患・術式別に156のClinical Questionを設定し,それに対するAnswerというかたちで,見やすいように各項目1~3ページとなっております.脳血管内治療以外の脳神経外科すべての領域に関して,それぞれの分野で第一線でご活躍の先生方に執筆していただきました. 各項目には専攻医が学ぶべき基本的な事項から,指導医にとってもためになる合併症の予防と対処法に対するコツやピットフォールが盛り込まれています.これらは手術に関する「暗黙知」をすべての人に伝わるように「形式知」として表現するプロセスを含んでいます.またエキスパートから伝えられた手術の「歴史」であるとも言えます.ビスマルクは「愚者は経験に学び,賢者は歴史に学ぶ」という格言を残しましたが,手術では無駄な経験は許されません.手術に望むにあたり「形式知」として伝達されている「歴史」を学ぶ必要があります.術者は,自ら手術の経験を重ねていくなかで,伝達された「形式知」を再び「暗黙知」として手術プロセスの中に取り込み,新たな「形式知」を生み出していく成長プロセスが大事だと思います. 本増刊号では,疾患・術式別にQ&A形式で細かく項目を分けていますのでいろいろな使い方ができます.担当する手術に関する項目,または興味を持たれる部分だけを参考にしていただいてもいいと思います.本増刊号が多くの先生方の日常臨床のお役に立てれば幸いです.最後にご多忙のなか,執筆の労をおとりいただいた先生方に感謝の意を表して序文といたします.序 文
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