130082007
6/8

690 脳神経外科速報 vol.30 no.7 2020.7.大宅宗一1,2) Soichi OYA1)埼玉医科大学総合医療センター脳神経外科〒350-8550埼玉県川越市鴨田1981番地2)日本脳神経外科同時通訳団団長脳神経分野における英語教育脳神経領域を志す医師のための指南書①Ⅰ.はじめに このたび「脳神経分野における英語教育」というテーマで原稿をご依頼いただいた.おそらく昨年私が日本脳神経外科同時通訳団団長に就任したからと思うが,正直に申し上げてもっと英語が得意な先生は脳神経外科医の中に大勢いらっしゃるので恐縮することしきりである.ただ私は英語に関して今までかなり苦労して人一倍試行錯誤してきたことには自負があり,これから脳神経分野の臨床や研究の場で使う英語力をブラッシュアップしたいと考える若手の先生のお役には立てるかもしれないと考えることとした.医学生時代,専門医以前の時代,大学院での基礎研究時代,臨床留学時代,そして現在,と各段階において多くの英語学習法を試しては失敗し,自分なりの解決策を模索してきた.本企画はNeuroscienceの魅力と将来が主題であるが,科学分野で英語が武器になることは間違いない.軽い読み物的な内容で恐縮だが,本誌の主要な読者層である若い世代の先生に主に私の個人的な英語にまつわる体験と,併せて同時通訳団の活動などについてもご紹介したい.Ⅱ.‌‌自らの英語の原体験と英語学習‌継続のモチベーション維持 まず恥ずかしながら英語に関する私的な話から始めさせていただきたい.私が生まれ育ったのは福島県の山村で,英語を勉強しようにもラジオの電波が届かず,英語が話せるのは村で中学校の英語教師一人のみという秘境の地であった.冬は険しい峠に雪が3m積もり,隣町への峠を車で越えられずに命を落とす村人もいた.村の中学校に入学し初めて英語に触れたが,教科書に出てくるKenがテープで話す,“Yes, it is”が,耳障りの良い「いえす,いと いず」ではなく,「イェス,イリーズ」としか聞こえず,「これはたいへんな学問が現れた」と怖くなった.中学校3年生の英語の授業でカナダ人女性が1時間だけ授業をしに来てくれて,人生で初めて外国の方にお会いした.その先生が,「今日は英語のテストからまず始めます」と言った際に,私が「Really?」と言うと,その先生がニコッと笑って「Yes!」と言ってくれ,私の初めてのnative speakerとの会話記念日となった.このときに自分が英語を好きになったのは,その先生が自分のタイプだったことと無縁ではないことも告白しなくてはなるまい. そして高校生となるが,私の高校は男子校で全校生1,200人以上が全て男子,教師もほぼ全員男性,女性の先生はわずか2人だった.うち1人は保健の先生で同級生のお母さんであったため,実質的に女性教師は新任の英語教師・K先生ただ1人であった.K先生は猛獣の檻に放たれた1匹の

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る