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脳神経領域の意義とやりがい 神経科学に必要な知識・技術・夢FEATURE脳神経外科速報 vol.30 no.8 2020.8. 809特別座談会【小笠原】本日はお集まりいただき,ありがとうございます.今年は岡山で脳神経内科,脳神経外科の総会が開催される予定で,それぞれ,両科参画型のプログラムが用意されていると伺っています.そこで今回,「脳神経領域の意義とやりがい」というテーマで,内科・外科を合わせた脳神経領域のおもしろさを若い世代にお伝えしようということで,この座談会を企画しました.ではまず阿部先生からお話しいただけますか?【阿部】岡山大学脳神経内科の阿部です.私は東北大学の出身で,脳卒中を中心にやってまいりましたので,司会の小笠原先生をはじめ,脳外科の先生方とも仲良くさせていただいています. 医師になって約40年が経ちます.私は非常に飽きっぽい人間なんですが,その私でもなぜ40年続けてこられたかというと,やはりこの脳神経内科という領域の特性にあるのではないかと思っています. 医学部を出た頃は,実は脳外科医になりたいと思っていました.ただ,まず一般内科をやってから考えようと思って内科で2年やったんです.その間,脳卒中を毎日診て,血管造影も何例もやっている中で,内科的治療もおもしろいなと思い始めて結局内科に入って今に至ります.【小笠原】ただ先生,40年前の脳卒中治療というと,あまり手段がなかった時代ですよね?【阿部】はい.そのとおりで,グリセオール®とD-マンニトールくらいしか選択肢がありませんでした.脳卒中という病気をもっと勉強してみよⅠ.座談会趣旨うと思い大学院に入り,いろんな病態を研究していくうちに,酸化ストレスが大事なメカニズムだと直感しました.当時持ち込まれた抗酸化物質を研究する中で,エダラボン(商品名:ラジカット)という薬の開発にかかわることになって,それが2001年に市場に出ることなりました.【小笠原】先生が開発されたエダラボンは脳卒中のみならず,ALS(筋萎縮性側索硬化症)のような神経変性疾患にも保険適用となっていて,そのご功績は非常に大きいと思います.【阿部】そういう薬を開発できたのは巡り合わせかもしれませんが,基礎研究を臨床現場に還元できるトランスレーショナル・リサーチの喜びがこの分野にはあると思います. 一方,神経内科医ですので,神経変性疾患をたくさんみるんですけれども,やはりなかなか治らないし原因も分からない.私は遺伝子に原因があるんじゃないかと感じて,アメリカに渡って神経疾患の遺伝子研究を行うことにしました.今でこそ神経内科でもずいぶん遺伝子研究が行われるようになりましたけれども,当時,日本の神経内科で遺伝子研究をやっていたのは,東大からNIHに留学しておられた辻 省次先生(現・東京大学特任教授)と私だけでした.遺伝子を解明することで病態の改善につなげ,それを治療にいかしていくというスタイルで取り組んできました. そうやって変性疾患にも取り組んでALSやパーキンソン病などをやってきましたが,この間に日本社会そのものが超高齢化になってきましたので,20年くらい前から認知症も本腰入れて始めたわけです.実は,アメリカに行った目的の一つはアルツハイマーの遺伝子ハンティングをすることだったんですが私が行っている間には取れなくⅡ.脳神経内科の魅力

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