膠芽腫(glioblastoma:GBM)は,生存中央値は2年未満,5年生存率10%未満と,極めて予後不良の疾患である.悪性度の高い膠芽腫においては,機能温存のために摘出率を下げて残存腫瘍量が多くなると,結果的に早期に死亡することは避けられない.UCSFのSanaiらは,78%以上の摘出率であれば,摘出率が向上するに伴い全生存期間が延長すると報告しているが1),78%摘出を達成すればいいということでは決してなく,摘出率が高くなればなるほど生命予後が改善することが強調されている.しかし機能障害をきたして生活レベルを落とすことは,得られた生存期間延長の意義をなくしてしまう.まさに「最大限の摘出および最小限の合併症(maximize tumor resection & minimize morbidity)」が目標となる.MDアンダーソンのLangらは,膠芽腫の造影領域は腫瘍細胞で構成されており正常脳組織は介在しない,故に機能野でも機能野近傍でも造影領域の全摘出は可能であると述べている2).筆者らも基本的に同様の理念をもっており,術前機能障害が明らかでなく造影領域へのアプローチによる障害と,摘出に伴った血管障害,主に穿通枝障害による虚血病変をきたさなければ,膠芽腫の造影病変は症状を悪化させずに全摘出できると考えている. 本項では,側頭葉に局在する膠芽腫の摘出について,筆者らの方法を提示させていただく.脳神経外科手術は,施設ごとに,術者ごとに,手術に対する哲学・手術手技が異なり,同じ神経膠腫に対する手術でも,体位から,開頭部位,アプローチまで様々で,定型手術は存在しないと断言しても間違いではない.裏を返せば,それが脳神経外科手術のおもしろいところでもあるかもしれない.筆者らの方法が今後の一助となれば幸いである. 膠芽腫の発生部位は,前頭葉が3割強,側頭葉が3割前後とされており,側頭葉は好発部位の一つである.若い脳神経外科の先生にとって神経膠腫の摘出は,周囲の脳実質と明らかに境界を有しない領域を延々と摘出していて,術者が何を考えてその操作を行っているか分からない,抑揚がない,という印象があるかもしれない.しかし,側頭葉および周辺には特徴的な解剖学的構造が多数存在するため,側頭葉神経膠腫摘出は本来の正常脳解剖を理解すれば,その摘出の理屈が明確となり,術者が考えている手術戦略を納得してもらえるのではないかと思われる.また,脳実質を摘出することによってしか確認できない解剖を直視できることも,興味を引くはずである.側頭葉内側を広く摘出した際には血管や神経が露出され,さらに血管撮影はじめに側頭葉膠芽腫と周辺の解剖1脳神経外科速報2020年増刊74脳神経外科速報2020年増刊膠芽腫(GBM)の手術―我々の流儀1:側頭葉内側膠芽腫を中心に柴原 一陽 北里大学脳神経外科隈部 俊宏 北里大学脳神経外科1
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