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はじめに 「グリオーマは治りますか」と患者に聞かれたらどう答えるだろうか.私はグリオーマも治癒する患者もいるので治療を頑張ってほしいと答えて,長期にわたって元気にしている患者の例を挙げて説明することにしている. 図1 a,bは30歳時に痙攣で発症した右前頭葉乏突起膠腫の患者で,手術後BAR療法(BUdR/5—FUの動注療法)を行い,局所60 Gyの放射線治療を施行した患者の治療開始40年後のMRIである.治療開始時にはCTもなかった時代であるが,2人の子どもを育て治療開始から46年後,76歳で亡くなられた.治療開始から39年目に大腿頚部骨折で長期入院するまでは日常生活もできてMMSE(Mini—Mental State Examination)も26点であった.世界最長生存のグリオーマの一人と考えられ,腫瘍摘出によりグリオーマが治癒し,照射を行っても長期にわたって元気でいられることを示す症例である.生存期間や再発までの期間は,術前の腫瘍体積・術後の残存腫瘍体積・摘出率と相関し,術前の腫瘍体積が大きいものほど悪性転化率が高く,腫瘍切除率が高いほど悪性転化までの期間が延長することが報告されており1),低悪性度神経膠腫(lower grade glioma)の治療は手術摘出度が重要な因子であることがわかる. 一方で図1 c,dは29歳時に腫瘍内出血により頭痛・右外転神経麻痺で発症し,部分摘出でdiffuse astrocytoma(IDH1 R132H変異)と診断された症例である.VP shuntを行い,術後に局所照射54 Gyとニムスチン(ACNU)による治療を行い,治療開始16年後も再発なく(図1 e),神経学的にも異常なく社会生活を営んでいる.腫瘍は右視床から発生しており,生検程度でも麻痺もなく長期にわたって生活できている症例もあることがわかる. Grade Ⅱ神経膠腫の腫瘍増大速度は平均3~5 mm/年程度と報告されている2).図2は右側頭葉にFLAIR高信号域を指摘されて3年後に生検で星細胞腫grade Ⅱ IDH—wtと診断されたものの,放射線化学療法を拒否し,残念ながらFLAIR病変を指摘されてから5年で亡くなった症例である.図3は乏突起膠腫grade Ⅱの症例で,病変が見つかってから10年にわたって緩徐に腫瘍が増大している.診断10年後のmethionine PETで取り込みがみられ,右手足のしびれも強くなり手術を行った. 図4に1970年から1999年末までに当院で治療を行った20歳以上のテント上grade Ⅱ/Ⅲ神経膠腫の長期生存成績を示す.いずれも局所照射とACNUなどの化学療法を行っている.Grade Ⅱ神経膠腫の10年生存率は52.3%で,20年生存率は30%である.Grade Ⅱ星細胞腫の10年生存率は52.3%,20年生存率は31.4%で,Lower grade gliomaの長期予後1125脳神経外科速報2020年増刊Lower grade gliomaの手術―我々の流儀2:予後と摘出成田 善孝 国立がん研究センター脳脊髄腫瘍科V章手 術Lower grade gliomaの手術―我々の流儀2:予後と摘出66

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