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はじめに 脳神経外科分野を基盤として中枢神経系(central nervous system:CNS) malignancy治療(Neuro—Oncology)の領域に踏み込んだ医師たちは幸運であった.ニムスチン(ACNU),ラニムスチン(MCNU),インターフェロン(INF)—β,テモゾロミド(TMZ),カルムスチン(BCNU)wafer,ベバシズマブ(BEV)と新薬が導入されてきたが,そのいずれもoff—target(意図しない/好ましくない作用)は緩徐・低頻度で,患者個々に対してoff—target対策の最適化を意図しなくとも薬物治療の遂行はおおむね可能であった.しかし,TMZ上市直後にニューモシスチス(pneumocystis)肺炎が頻発したことなど,本領域のoff—target対策への不勉強が垣間みられたこともあった1).今後は新規薬剤として導入される薬剤はすべて分子標的薬といってよく,がんゲノムプロファイル検査で治療選択薬として拾い上げられる薬物も当然すべて分子標的薬,ならびに分子標的薬を含んだ治療レジメンとなる. そのため,脳のがんとも言うべきCNS malig-nancyに対する薬物治療の荒波にこれから乗り出そうとしている若い脳神経外科医にとって,必要最小限の分子標的薬の基礎知識をまとめることを本項の目的とした. 悪性新生物はどうして無秩序な増殖・浸潤能力を獲得するのか? 分子標的薬の種類は? どうして分子標的薬は悪性新生物を縮小できるのか? 一見,複雑な薬物名称をできるだけ簡単に整理できる方法は? がん免疫とは? PD—1/PD—L1分子機能阻害ががんの増殖を抑制するメカニズムは?  これらの課題について,初学者の理解を促進する観点から,一足早く荒波に乗り出さざるを得なかった筆者が8年間の自身の経験を踏まえて解説を試みたい.がんの分子遺伝学的理解 ①規則正しく増殖する機能が壊れている,または②無秩序に増殖することをチェックする機能が壊れている,いずれかの状態になっているためである.1.遺伝子の変異でがんが発生 細胞や組織は一般的には新陳代謝を繰り返しているので,規則正しく増殖する必要がある.これらは細胞内増殖シグナルを制御することで保たれている.図1に代表的な細胞内増殖シグナルであるPI3K/mTOR系とRAS/RAF/MEK系シグナルと変異蛋白を標的とした薬剤を示した2).この図の細胞は腫瘍細胞だけを指すのでがんはなぜ発生し,無秩序に増殖するのか?1脳神経外科速報2020年増刊10脳神経外科速報2020年増刊悪性脳腫瘍治療に必要な分子標的療法の理解のために杉山 一彦 広島大学病院がん化学療法科1

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