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 わが国におけるグリオーマ(glioma)の年間発症率はおおむね4,000例程度と推定され1),希少がんの定義に該当する.グリオーマは発生頻度が低い反面,種類が多い上に組織像は非特異的で,異なる腫瘍型であっても,よく似た組織像を示すことが少なくない.特異的な免疫組織化学的マーカーが事実上存在しないことと相まって,グリオーマの病理診断はHE染色に基づいた主観的な判断に依存せざるを得ない側面がある.このためWorld Health Organization(WHO)の脳腫瘍組織分類(WHO Classification of Tumors of the Central Nervous System)や脳腫瘍取扱い規約が広く受け入れられてからも,施設間のみならず専門家の間でも診断の乖離を解消することは困難であった. 中でも最大の課題は,乏突起星細胞腫(oli-goastrocytoma)の組織診断であった.類円形で細胞質と細胞突起の乏しい腫瘍細胞を乏突起膠腫(oligodendroglioma)と捉えるか,丸い星細胞腫(astrocytoma)と捉えるかは,検者の主観に委ねられており,oligoastrocytomaの存在を認めない立場もあった.両者の悪性度の基準が異なっていることと合わせて,同一の腫瘍に対して,乏突起膠腫から退形成性乏突起星細胞腫(anaplastic oligoastrocytoma)まで多様な診断名が存在する結果となっていた. 2016年に出版されたWHO2016分類2)において,成人グリオーマの分子分類が初めて導入された.成人の乏突起膠腫は,isocitrate dehydro-genase(IDH)1/2変異(IDH変異;IDHは複数の遺伝子の総称であるので正立体で記載する)と1番染色体短腕と19番染色体長腕(1p/19q)の共欠失(codeletion)を伴うことが定義となり,IDH変異とTP53変異を有するものの,1p/19q共欠失を欠く星細胞腫とは,組織像にかかわらず,分子型によって星細胞腫と乏突起膠腫は明確に二分されると共に,TP53変異と1p/19q共欠失は相互排除的であることから,乏突起星細胞腫は分子遺伝学的に存在しないことが明確となった.また,IDH野生型の膠芽腫(glioblastoma,IDH—wildtype)はテロメラーゼ逆転写酵素(TERT) promoter遺伝子の変異を欠き,IDH変異型の星細胞腫から進展する膠芽腫(glioblastoma,IDH—mutant)とはまったく異なった腫瘍であることが明らかになった(図1). しかしながら,WHO2016分類によって定義上の課題は解決されたものの,脳腫瘍の遺伝子検査が保険適用されていないわが国の病理診断の現場では,WHO2016診断に必須の最低限の遺伝子検査すら実施することが難しく,課題が真に解決されたとは言い難い現状である. 本項においては,WHO2016分類の概要2—5)と次期WHO分類の改訂に向けた取り組みに基づいた成人グリオーマの分子分類について概説する.はじめに脳神経外科速報2020年増刊56脳神経外科速報2020年増刊成人グリオーマの分子分類小森 隆司 東京都立神経病院検査科1

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