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206 脳神経外科速報 vol.31 no.2 2021.3. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の特徴として,発病2日前の無症状期から感染する可能性が指摘されています.これは患者の背景や状態についての情報が不足する中,短時間で初期治療,画像診断,手術,集中治療管理を進めなければならない救命救急センター(三次救急医療機関)にとって大きな問題です.ひとたびCOVID-19患者がそれに気づかれず,重症化リスクの高い患者ばかりの救命救急センターに入院した場合,クラスターの発生は不可避で入院中患者の生命予後にも悪影響を与えることになります.さらにはクラスターが発生した救命救急センターのみならず,病院全体の入院を停止せざるを得ず,地域の医療に与える影響は計り知れません. 埼玉医科大学総合医療センターは,1,000床を上回る病床と全国最大規模の高度救命救急センターならびに総合母子周産期医療センターを併設し,災害拠点病院,がん拠点病院,ドクターヘリ基地病院にも指定されている県内最大の基幹病院です.その中で高度救命救急センターは,埼玉県全域から重症外傷症例を集約しInjury Severity Score(ISS)16以上の重症外傷患者収容数年間382例,全身麻酔手術件数年間1,214件(2019年)と米国Level 1 Trauma centerに匹敵する国内随一の重度外傷センターとして機能しています. 一方,埼玉県は人口あたりの医師数,看護師数,病床数がいずれも全国最下位の医療過疎県です.救急医療も例外ではなく,救急入院,特に重症救急患者に対応できる集中治療室は,平時においても慢性的に不足しているのが現状です.このような厳しい医療需給体制の中,昨年来のCOVID-19 pandemicの中,県内の多くの救命救急センターでは重症COVID-19患者診療のため三次救急の対応機能を一部低下あるいは全面的に休止している状況です.しかし,埼玉医科大学総合医療センターにおいては,高度救命救急センター(重症外傷Ⅰ.はじめに安田慎一 Shinichi YASUDA,澤野 誠 Makoto SAWANO,荒木 尚 Takashi ARAKI埼玉医科大学総合医療センター 高度救命救急センター 〒350-8550 埼玉県川越市鴨田1981 当院は埼玉医科大学グループに属し,許可病床数は高度急性期・急性期合わせて1,053床の病院です.埼玉唯一のドクターヘリ基地病院であり,高度救命救急センターとして県内の広域から重症患者が搬送される施設です.当院のCOVID-19への対応の特徴はコロナウイルス感染症患者を“分離”することにあります.地域の要として救命救急センターでクラスターを起こさないため徹底した感染症対策を行っています.KEY WORDSCOVID-19,クラスター,救命救急センター救命救急センターでの対応急性期疾患での対応の変化①

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