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INFECTION CONTROL 2018年 春季増刊17臨床推論の基本第2章症例は78歳の女性。脳梗塞後遺症で車椅子自走レベルのADLで、今回は腎盂腎炎で入院となっていました。計14日間の抗菌薬治療終了後に退院調整していたところ発熱し、諸検査では炎症反応上昇の他は特記所見はなく、培養検査も陰性でした。訪室すると、38℃前後の発熱がありながら比較的元気で、左膝関節の発赤・腫脹・熱感・疼痛を認め、関節穿刺にて偽痛風の診断でNSAIDsの内服を開始したところ、速やかに解熱しました。患者が発熱し、その原因が分からないということはよくありますが、どのような状況であっても、感染症診断の3要素(患者背景、感染臓器、原因微生物)を整理することが重要です1)。この3要素が明らかになれば、おのずと診断が定まり、治療方針も決定します。入院患者の発熱の鑑別は外来患者よりはるかに少なく、限られています。橋本医師が回答します〈発熱診療のストラテジー〉熱源を探るために必要なのは、根気強さとしぶとさであり、地味で地道な診察です。主治医ともコミュニケーションを取りながら、系統的かつ漏れなく調べ上げ、見落としのないワークアップと慎重なフォローが要求されます。その根底にあるべきは「確からしい診断」であり、①患者背景の把握、②感染臓器の特定、③原因微生物の同定あるいは推定、といったアセスメントです。そうすれば「どのような患者の、どの臓器に、どの微生物が感染しているか」という三角形を考えることができます。発熱の原因が見落とされるときというのは、所見に気付かなかったのではなく、その所見を探していないということがほとんどです。鑑別診断にあげて、積極的に探しにいけば見つけることは難しくありません。患者背景では免疫不全がないかを検討します。免疫不全というとHIV感染症や臓器移植などを連想しがちですが、実は糖尿病、肝硬変、腎不全が最もよくみる免疫不全疾患です。これらの患者では所見が乏しくなり、わずかな変化が感染症のサインであることもあり、慎重に診察する必要があります。また高齢者では脳梗塞や認知症で寝たきりの患者も同じように所見が取りにく

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