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INFECTION CONTROL 2018年 春季増刊22など自己免疫疾患でステロイド内服中や免疫抑制治療中の患者が救急搬送されたり、夜間・休日に時間外受診することがあります。この患者のように入院中でなくても頻回な医療介入を受けている場合は、院内感染症に準じた緑膿菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus、MRSA)といった耐性菌は要考慮です。担癌患者では閉塞病変による肺炎・胆管炎・肝膿瘍、また血液疾患や化学療法に伴う発熱性好中球減少症は緊急疾患です。免疫不全患者では、一般細菌に加えニューモシスチスや真菌など鑑別の幅が広がりますが、「レジデントのための感染症診療マニュアル」2)などを参照してみてください。迅速な対応を求められる敗血症だからこそ、感染巣を根気強く探し出し、起炎菌を具体的に想起する最大限の努力が必要です。患者背景や基礎疾患の把握が不十分となり得る救急外来では、エコーやCTといった画像検査が感染巣の特定に有用ですが、諸検査で感染巣が特定しにくい疾患の例として、壊死性筋膜炎と細菌性髄膜炎があります。壊死性筋膜炎はまれな疾患という印象があるかもしれませんが、遭遇し得る疾患は必ずいつか遭遇する(マーフィーの法則)ので、全体像を認知し鑑別の一つとして考慮することが大切です。発症初期に皮膚所見は正常で画像所見もあてにできず、それなのにやたら痛がって苦しそうで、いわゆる「敗血症的」な様相で全身状態が悪いという点から疑い、病巣の試験切開あるいはデブリードマンへ踏み込む必要があります。他には陰部のフルニエ壊疽も見逃され得ます。教科書の写真で見るような、真っ黒に壊死して水疱ができた所見は、壊死性筋膜炎の成れの果てなのであり、初めからそういったプレゼンテーションで皆さんの目の前に患者が現れるわけではありません。この患者のように細菌性髄膜炎は疑ったら髄液検査をすることに尽きます。初圧正常、細胞数と蛋白の上昇なし、髄糖が血糖値の半分以上あれば、ほぼ除外可能とされていますが、発熱・項部硬直・意識障害の古典的3徴が揃うのは44%で、頭痛・発熱・項部硬直・意識障害のうち、95%の髄膜炎患者で少なくとも2つはあります3)。有名なJolt accentuationは意識障害がない患者が前提であり正確性に乏しいとする報告もあり4)、項部硬直・ケルニッヒ徴候、ブルジンスキー徴候いずれも感度9〜30%なので、それらがないからといって除外できる所見ではありません。また、海外渡航歴があるケースでは、輸入感染症も鑑別疾患に考慮しなければなりません。渡航関連疾患で病院受診者の2大原因は消化器症状と発熱で、渡航歴・潜伏期・曝露歴・ワクチン接種のチェックが必要です5)。年間50〜150例程度の報告があるマラリアはサハラ以南のアフリカ地域からの帰国者に多いのに比べ、デング熱はすべての熱帯/亜熱帯からの帰国者にみられるという特徴があります6)。

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