サルコペニアとは わが国は2007年に世界に先駆けて超高齢社会を迎えて以来、医療の世界では単なる「平均寿命」の延伸ではなく、「健康寿命」の延伸という概念が浸透してきました。近年の研究によれば、加齢や疾患に伴う筋肉量の減少や筋力の低下によって、その人の日常生活動作(activities of daily living;ADL)や生活の質(quality of life;QOL)が低下し、健康寿命に大きな影響を与えることがあきらかになりつつあります。こうした背景のなかでサルコペニアという概念が生まれ、普及するようになりました。 サルコペニアとは、ギリシャ語のsサルコarco(肉)とpペニアenia(減少)を組み合わせた造語で、「進行性および全身性の筋肉量の減少や筋力の低下を特徴とする症候群」と定義されます。加齢によるものを一次性サルコペニア、種々の疾患や栄養不良、身体活動の低下など何らかの原因によるものを二次性サルコペニアといいます。 サルコペニアを発症すると、転倒や骨折から寝たきりになりやすくなります。その結果、さらに全身の筋肉量減少や筋力低下を来すという悪循環が生まれ、最終的には死亡などの重篤な転帰のリスクとなることがわかっています。 現在、日本人高齢者でのサルコペニアの有病者数は、男性で約132万人、女性で約139万人と推測されています1)。サルコペニアを予防することで、QOLやADLの低下を防ぎ、患者の長期的予後の改善につながります。透析患者とサルコペニア 透析患者では加齢による一次性サルコペニアに加え、さまざまな病態によって二次性サルコペニアを発症するリスクが高いとされています。 たとえば、透析では人体に有害な尿毒症物質を除去するのと同時に、筋肉量の維持に不可欠な蛋白質やアミノ酸の喪失も生じてしまいます。また、透析時にはベッドで安静にしていなければならず、その間の身体活動も制限されます。透析後に倦怠感やふらつきがあれば、自宅での食事量や運動量も減少するでしょう。そのほかにも原疾患に伴う合併症や慢性炎症など、種々の要因が複雑に影響し合い、筋肉量が減少しやすい状態となります2)。サルコペニアの検査・診断 サルコペニアの診断には、身体活動、筋力、筋肉量の3点を確認します(図)。まず、日常生活でもっとも基本的かつ重要な動作の一つとして、歩行の検査を行います。歩行の検査では、通常の速度でおよそ5〜10m程度の距離を歩行してもらい、歩行速度を算出します。歩行速度が0.8m/221透析ケア 2018 冬季増刊216第章サルコペニア
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