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鉄動態の指標 鉄は赤血球造血などに必要な微量金属で、健常者の生体内には約3,000〜5,000mgの鉄が存在し、その3分の2はヘモグロビン(hemoglobin;Hb)鉄で、肝臓や網内系の貯蔵鉄は約1,000mg程度とされています。血清鉄はすべてトランスフェリンと呼ばれる蛋白質と結合しており、トランスフェリンの総量を総鉄結合能(total iron binding capacity;TIBC)、血清鉄と結合していないトランスフェリンを不飽和鉄結合能(unsaturated iron binding capacity;UIBC)と称します。TIBCは血清鉄とUIBCの和であり、それぞれ体内の鉄動態の指標となります。加えて、TIBCのなかで鉄と結合している割合をトランスフェリン飽和度(transferrin saturation;TSAT)と称し、こちらも鉄動態の指標として用いられています。 フェリチンはほとんどすべての細胞内に存在する鉄結合蛋白質で、結合することで鉄を無毒化するとともに、細胞内に鉄を保存する役割があります。加えて、肝臓や脾臓などの網内系細胞では、血清鉄が低下した際の鉄供給源となります。フェリチンの発現は細胞内の鉄の過不足により制御されており、体内の鉄が増加すると産生が亢進し、減少すると低下します。血清フェリチン値は、このような細胞内から産生されたフェリチンが一部血液に流出しているのを測定しているため、血清フェリチン値は細胞内の貯蔵鉄の状態の指標とされています。 生体内において鉄を能動的に排泄する機構は存在せず、汗や粘膜、上皮細胞の剝離から少量が喪失するのみで、1日に失われる鉄はごく少量です。人はこの喪失量に相当するごく少量の鉄を食事から吸収し定常状態に保っており、1日の鉄のイン・アウトは1〜2mg程度とされています2)。そのため、消化管出血や女性における過多月経となる病態などが存在する場合、そのバランスは負に傾くため、容易に鉄欠乏状態となります。検査の目的・頻度 透析患者においては慢性炎症の状況下にあり、インターロイキン- 6(Interleukin- 6;IL- 6)などの炎症性サイトカインの慢性的な上昇が認められ3)、それに誘導されたヘプシジン値の上昇が起こります。このヘプシジンは細胞内から血液中への鉄放出を抑制するペプチドホルモンであり、その増加に伴い血清鉄の低下と血清フェリチン値の上昇がひき起こされます。加えて、透析患者では週3回の血液透析における血液回路内の残血や、定期的な採血などで1ヵ月に20〜30mg程度の鉄分を喪失しているといわれています4)。以上のことから、透析患者では一般的に血清鉄は低値になりやすい状態であり、それに伴ってひき起こされる貧血などを予防するうえで、定期的な鉄動態のチェックと必要に応じた鉄補充療法が重要と考えられます。 2015年に日本透析医学会が策定した『2015年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン』1)においても、定期的な鉄動態の評価が推奨されています。評価項目として血清フェ51透析ケア 2018 冬季増刊110第章血清フェリチン値/トランスフェリン飽和度(TSAT)

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