130102010
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体水分量が過剰であればあるほど短時間で多くの除水をし、適正体重(ドライウエイト)を目指すことになります。すなわち、細胞外液量を急激に減少させることになり、心拍出量が低下して血圧低下につながるリスクが高くなります。透析間体重増加に気をつけるように患者へ指導する目的の一つは、透析前の高血圧を予防し、透析中に過剰な血圧低下を伴わない安全な透析を実行するためです。一般的な高血圧の基準は診察室血圧で140/90mmHg以上 『高血圧治療ガイドライン2019』2)には、診察室血圧では、収縮期血圧が140mmHg以上かつ・または拡張期血圧が90mmHg以上で高血圧と診断するとあります。また、家庭血圧での判断基準も明記されており、5~7日の平均で、収縮期血圧が135mmHg以上かつ・または拡張期血圧が85mmHg以上である場合も高血圧と判断されます。気をつけなければならない点は、どちらの基準も坐位で測定した血圧が採用されていますが、血液透析患者の多くは透析中に臥位で血圧を計測している点です。多くの過去の報告から、健常者ではこの基準より血圧が高くなればなるほど、脳卒中や心筋梗塞といった、心血管イベントの発症リスクは高くなることが示唆されています。死亡リスクが低い血圧は 血液透析患者と健常者で異なる では、血液透析患者も非透析患者と同じように考えてよいのでしょうか。血液透析患者の報告を見ていると、前述したガイドラインの基準値を血液透析患者にそのまま当てはめることに疑問をもたざるを得ません。1.透析前血圧と予後 Hannedoucheらは、フランスの血液透析患者9,333人を対象に前向き観察研究を行い、透析前の収縮期血圧と総死亡リスクおよび心血管合併症による死亡リスクとの関連性を検討しています3)。この研究結果から、総死亡のリスクはU字型を示し(図)3)、もっともリスクの低い収縮期血圧は165mmHgであることがわかります。また、心血管合併症による死亡リスクは、収縮期血圧が157mmHgでもっとも低いことがわかります(図)3)。すなわち、血液透析患者の場合は、血液透析直前の収縮期血圧が150~170mmHgであった場合、前述したガイドラインでは重症度が高いにもかかわらず、死亡リスクは低くなるのです。逆に、収縮期血圧が150~170mmHgよりも低くなる、もしくは高くなるほど死亡リスクが上昇することを意味しています。2.血液透析中の血圧と予後 約11万人の血液透析患者を対象とした観察研究では、血液透析中の最低収縮期血圧が90mmHg未満を示す患者では、110~120mmHgを示す患者に比べて、死亡リスクが約1.6倍高いことが報告されています4)。また、透析前の収縮期血圧から透析後の収縮期血圧を引いたとき、血圧が低下するが30mmHg以内の(血圧がほどよく下がる)患者に比べて、31mmHg以上下がる(透析中に血圧が下がりすぎと考えられる)Special Edition高くても低くてもいけないのはなぜ? トコトン図解で透析患者の血圧を科学する!透析ケア 2020 vol.26 no.10 (907) 11

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