キャリアとは何か国語の辞書でキャリアを引くと、①職業・生涯の経歴、②専門的技能を要する職業に就いていること、③国家公務員試験Ⅰ種(上級甲)合格者で本庁に採用されているものの俗称1)、とあります。私の前職場の神戸大学医学部附属病院では、既卒新人を「キャリア新人」と言っていました。その意味は、看護師のライセンスをもっている看護師なのですが、あるとき、看護師長と薬剤師との会話で、看護師長が「うちのキャリア新人が……」と話したところ、薬剤師はちょっと驚いたような表情で「ほお~、看護部にはエリートの新人がいるんですか?」と言われたそうです。薬剤師は、キャリアのもつ意味を、冒頭で紹介したキャリアの3つ目の定義、すなわち、“キャリア組”を連想させる「エリート」という意味にとらえたのでしょう。看護師長は、あわてて「いえいえ、この場合のキャリアは既卒という意味で……」と説明したそうです。キャリアという用語のとらえ方が人によって異なるということを象徴する出来事でした。さて、本書の主な読者対象は主任や副看護師長ですから、ここからは、組織内のキャリアという観点から、キャリアの考え方を確認しましょう。米国のキャリア研究家のダグラス・ホールは、キャリアは、仕事を通してこれまで積み上げてきたプロセスであり、仕事に関する経験の連続であると考えました。また、キャリアカウンセリングで有名なトニー・ワッツは、キャリアは、仕事や学習を通して一生涯進んでいくものであり、その進行は上昇だけでなく、横にも広がるという考えを示しました。さらに、金井は、働く人のキャリアという明確な観点から次のように述べています。「成人になってからフルタイムで働き始めて以降、生活ないし人生(life)全体を基盤にして繰り広げられる長期的な(通常は何十年にも及ぶ)仕事生活における具体的な職務・職種・職能での諸経験の連続と、(大きな)節目での選択が生み出していく回顧的意味づけ(とりわけ、一見すると連続性が低い経験と経験の間の意味づけや統合)と、将来構想、展望へのパターン」2)。このように看護職のキャリアを考えるにあたっては、単に仕事経験を積むだけでなく、その経験を意味づけしたり統合したりしながら成長し続けることが大切です。9人材育成の基礎知識1第章Nursing BUSINESS 2020 夏季増刊
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