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して動いていたこともあり、だんだんと1病院のセミナー講師から全国的な集まりでも話すようになり、緩和医療学会の立ち上げに際しては人文社会系代表の理事に就任したりと、いつのまにかこの世界に引き込まれていました(笑)。石垣 清水先生との出会いは、振り返ると“化学変化”ともいえる経験でした。当時はがんの告知もあまり行われていない時代で、東札幌病院では、「お孫さんの小学校入学までがんばりましょう」など、あいまいな表現ながらも、予後や病気のことをご本人にお伝えするようにしていました。ただ、その頃から「告知」という言葉に違和感を覚えていまして、それは上から目線で告げるとのイメージがあって、患者さんへの伝え方は、そんなものであってよいのかとモヤモヤした気持ちを抱いていました。このモヤモヤの正体を明らかにしてくださったのが清水先生の言葉です。これは先生が定期的に行っていた「倫理セミナー」のなかにあった言葉を当時メモしたものですが、『知らせるということは伝える側が掴んでいる事実をそのまま告げることではない。聞く側が持っている言語によって適切に状況を把握できて、はじめて知らせたことになる』と表現されていました。これだと思いました。すなわち、聞く側の言語をどれだけ尊重するか、それは単に言葉という意味ではなく、その人が置かれている状況、その人の価値観、文化、そして何を望んでおられて、これからどのように生きたいと思っておられるのか。そうしたことを理解しようとしたうえで、対話を重ねていくことが極めて重要であることを整理して示してくださいました。患者さんに伝えるとはそういうことなのだと、本当にストンと腑に落ちたことを覚えています。 その後、1990年に日本医師会生命倫理懇談会がインフォームド・コンセントを「説明と同意」という言葉で表現したのですが、この「説明と同意」が一人歩きして、いまだにインフォームド・コンセントとは医師が説明して患者が9Nursing BUSINESS 2021春季増刊■ ■ ■ ■  1章 対談:石垣靖子×清水哲郎石垣 靖子(いしがき・やすこ)北海道医療大学名誉教授。1960年、北海道大学医学部附属看護学校卒業。同医学部附属看護学校教務主任、同医学部附属病院副看護部長などを経て、1986年、ホスピスケアを専門に行う東札幌病院に勤務。看護部長、副病院長、理事を歴任する。2004年、北海道医療大学大学院看護福祉学研究科教授。2016年より現職。1992年、社会のために有意義な活動を続け、功績をあげた女性に贈られるエイボン女性大賞受賞。2014年日本がん看護学会学会賞受賞。患者、家族に身近な存在として、長年、ホスピス、緩和ケアに携わる。主な著書に『ホスピスのこころ―最期まで人間らしく生きるために』(大和書房)、共著『臨床倫理ベーシックレッスン―身近な事例から倫理的問題を学ぶ』(日本看護協会出版会)など。

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