130212150
8/14

同意するという単純すぎる理解をされていることがあります。これにも大きな違和感を覚えました。「説明と同意」とは、説明する側が主役になります。医療において医療者が主役になるのは特殊な状況のときだけで、言うまでもなく主役は医療を受ける人たちです。インフォームド・コンセントについては、倫理セミナーのテーマに上げて話し合い、インフォームド・コンセントについてのガイドラインを倫理委員会で作成しました。インフォームド・コンセントの本質、すなわち医療者は患者さんからインフォームド・コンセントを得るのだという確認においても、清水先生が考え方や表現の整理を手伝ってくださり、このような、私たちが日常行っている患者さんの意思決定を支えるプロセスのあり方を「情報共有—合意モデル」(56ページ参照)として概念化してくださいました。 思い返せば、倫理セミナーではQOLについての話し合いにもっとも時間をかけました。緩和ケアの目標は、「患者とその家族にとってできる限り良好なQOLを実現することである」とWHOが定義していますが、当時、QOLという言葉の使い方や理解が職種によって、また人によって異なっていて、あいまいな使われ方がされていることが気になっていました。カンファレンスなどで「この人にとってのQOLは……」と話し合っても、参加者それぞれでQOLの理解が異なっていては同じ方向を向いてケアは提供できません。医療の目的がQOLを高めることだとすれば、スタッフ間でのQOLについての共通理解は必須です。ここにはずいぶん時間をかけました。当時発表されていたアメリカやカナダのQOL研究、あるいはQOL評価表の検討なども行いました。 清水先生が、『医療現場に臨む哲学』(勁草書房)というご著作のなかでQOLについて詳細に説明をされています。すなわち、医学的QOLの評価は環境の評価であり、その人の人生のチャンス、ないし可能性、あるいは選択の幅がど10Nursing BUSINESS 2021春季増刊清水 哲郎(しみず・てつろう)岩手保健医療大学学長。1969年、東京大学理学部天文学科卒業後、哲学を志し東京都立大学、同大学院に進む。1977年都立大学助手、1980年北海道大学講師、1982年同大学助教授、1993年東北大学助教授、1996年同大学教授、2007年東京大学大学院人文社会系研究科上廣死生学・応用倫理講座特任教授。2017年より現職。専門分野は哲学・倫理学、特に西欧中世における言語と倫理の哲学・キリスト教思想史。80年代後半から、医療の専門家と対話しつつ進める〈医療現場に臨む哲学〉を試み、やがて臨床倫理学と臨床死生学の交差する領域で実践的研究を進めるようになった。主な著書に『医療現場に臨む哲学』『医療現場に臨む哲学2ことばに与る私たち』(勁草書房)。『高齢社会を生きる―老いる人/看取るシステム』(編著東信堂)、共著『医療・介護のための死生学入門』(東京大学出版会)、共著『臨床倫理ベーシックレッスン―身近な事例から倫理的問題を学ぶ』(日本看護協会出版会)など。

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る