130212150
9/14

れほど広がっているか、言い換えればどれほど自由があるかという表現でQOLを整理してくださっているのですが、このように明快な言葉にしていただけると、私たち医療者は日常的に使う言語についての共通理解を持つことができます。これは極めて重要なことでした。実践家と哲学者―言葉の専門家―が出会うことによって、現場で感じるモヤモヤが整理され、何よりも、単に回答を与えるのではなく、一緒に考えて納得へと導いてくださって、医療者間で言語について共通理解を持てるようになったことは、冒頭申し上げたように、まさしく“化学変化”というべき体験でした。清水 今、おっしゃっていただいたことを私の立場で言うと、石垣先生をはじめとする東札幌病院の現場のスタッフの方々と出会えたことは、私の人生にとっての大きな分岐点でした。哲学・倫理学の専門家として大学で教鞭をとっていましたが、哲学は、書籍を読み解くだけでなく「おまえはどう考えるのか」と自らに問うものです。当時、生命倫理は新しい領域として注目され、QOLやSOL(Sanctity of Life:生命の神聖さ)、安楽死などの議論が盛に行われていました。でも、私は生命倫理に飛びつく傾向に同調できませんでした。というのも、哲学特有の思考法を安楽死などの問題に応用して、自分は手を汚さず、高みから論評するような、机上の学問というか、そうしたあり方が嫌だったのです。 生命倫理の文献を読んだりはしていましたが、考えるための適切な場がないという感じでした。それが東札幌病院のみなさんに出会い、現場のことを教えていただくことで、誰かが書いた書物ではなく、実践という価値ある書物が与えられたと感じました。医療者が考え、悩み、動いて、患者の人生・生命に関わる。そうした場に同行させていただき、「おまえはどう考えるんだ」と問われているように感じ、私の背景は哲学で、そこで受けた訓練は言葉自体に注目す11Nursing BUSINESS 2021春季増刊■ ■ ■ ■  1章 対談:石垣靖子×清水哲郎

元のページ  ../index.html#9

このブックを見る