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2017秋季増刊96また、尿閉や尿失禁は、在宅生活への阻害因子となります。尿失禁のある脳卒中患者は、ADLの変化や自宅退院率が低くなります3)。さらに、運動麻痺が重度の場合は、片手でズボンの上げ下げなどを行わなければならず、バランス能力が要求されるため、補助や誘導が必要な場合もあり、難易度としては非常に高い動作となります。排尿障害とうつの関連についても大切です。池田らは、70歳以上の高齢者を対象とし、尿失禁、OAB、夜間頻尿とうつ傾向〔Geriatric Depression Scale(GDS)得点〕に有意な関連を認めたと報告しています4)。これは、排尿症状に精神・心理状態が関連することを裏づける結果ではないかと考えられます。身体的側面だけでなく、心理的・社会的側面への配慮も必要であることがわかります。 排尿の場合、「尿意を感じる」「トイレまで移動する」「衣類を着脱する」「排尿する」「後始末をする」「衣類を整える」といった多岐にわたる動作から成り立っています。とくに、ズボンの上げ下げは難易度が②排泄は多岐にわたる動作から成り立っている高く、転倒にもつながりやすいため、訓練場面でも重要項目になる場合が多いです。③排泄動作は個別性が高い 排泄動作は、個別性の高い動作です。例えば、男性の場合、ズボンにベルトを装着した状態で男性用便器の前に立っているとすると、まず、ベルトを外すか外さないか、そして、下着を下ろして前から出す人、下ろさず横から出す人、下着の小窓から出す人といったように方法はさまざまです。病前のトイレ環境のみならず、信頼関係が築けているのであれば、こういった詳細な評価も必要です。 『高齢者尿失禁ガイドライン』によると、高齢者における尿失禁の頻度はきわめて高く、在宅高齢者の約10%、病院や介護施設などに入所している高齢者では50%以上に尿失禁がみられます。わが国では、60歳以上の高齢者の50%以上に尿失禁があると報告され5)、その実数は300万人とも400万人ともいわれています。大島らも、愛知県内にある養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、老人保健施設において尿失禁のためオムツを装着している高齢者の頻度を調べ、それぞれ8.5%、54.5%、58.6%と報告しています6)。筆者らの通所介護施設で歩行が自立している利用者の報告でも、48.3%が尿失禁を有しており、41%が布パンツ以外のパンツ型紙オムツや失禁パッドなどを使用していました7)。④60歳以上の高齢者の2人に1人は尿失禁を有する排尿症状38/72 (53%)蓄尿症状夜間頻尿26(36%)切迫性尿失禁21(29%)尿意切迫感17(24%)夜間頻尿13(18%)遺尿症4(6%)排出症状排尿困難感18(25%)残尿4(6%)表1 脳卒中と排尿症状(文献2より引用)
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