82019秋季増刊 人間は哺乳動物であり、生まれてすぐにオッパイを吸うことができます。このときには吸きゅう啜てつ・嚥下反射(哺乳反射)がはたらいて、本能的に誤嚥することなく母乳を飲むことができます。ところが、人間は成長するにつれて、乳児では可能であった液体の飲み込みがむずかしい課題となっていきます。とくに高齢者では、液体で誤嚥しやすくなります。その原因の1つに、進化の過程で口腔、咽頭、喉頭の解剖学的構造が大きく変化したことがあります1)。人間は二足歩行や直立姿勢を獲得し、ほかの哺乳動物と比較して喉頭が下方に落ち込み、その結果、咽頭腔が拡大してさまざまなことばを発声しやすい構造になりました。言語に関する遺伝子が出来上がったことに加え、このような咽頭や喉頭の構造的変化が言語の発達に影響しているといわれています。しかし、その代償として解剖学的に誤嚥しやすい咽頭・喉頭の構造となりました。つまり、喉頭が下がることによってそれまで機能的に分離されていた呼吸経路と食物経路が交差するようになってしまったのです。構造と機能は不可分の関係にあり、変化した構造に合わせて、咽頭・喉頭はじめに機能もより複雑な連携が必要になりました。このメカニズムに関しては後ほど、嚥下造影検査(videoflorography;VF)や嚥下内視鏡検査(videoendoscopy;VE)のビデオ画像に基づいて解説します。口腔や咽頭・喉頭の機能として、①呼吸、②発声、③咀嚼嚥下(口から食べること)があります。私たちは、なにげなく食事を楽しんでいますが、実はこれらの3つの機能が協調した運動を学習したことで、さまざまな食べ物を箸やナイフ、フォーク、皿やコップなどの食器類を使って楽しく器用に食べることが可能となりました。例えば友達と話しながら箸で刺身を食べ、グラスでビールを飲み、時に笑い、声を出して楽しく食事をしている場面を思い浮かべてください。このときには、無意識に誤嚥しないように呼吸、発声、咀嚼嚥下運動が協調されて行われています。このメカニズムは非常にオートマチックな精密な動きといえ、生来ある嚥下反射に加えて、人間が成長・発達の過程で獲得してきた学習効果といえる複雑な運動機能ということができます。口腔・咽頭・喉頭の機能解剖の特徴藤田医科大学医学部ロボット技術活用地域リハビリ医学 教授 太田喜久夫1章 “食べたい!”を阻む要因を突き止める!─摂食嚥下機能と障害1摂食嚥下機能を理解するための解剖生理1
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