130241951
11/16

これだけはおさえておきたい! 検査所見第3章産業保健と看護2019春季増刊71【検査値と併せたアセスメント方法】AST、ALTがともに高値を示す場合は肝機能障害が疑われますが、肝細胞以外にも存在するASTが優位に高値を示す場合は心筋梗塞、心筋症、溶血性貧血、骨格筋の疾患など肝臓以外の病気の存在も疑われます。したがってASTの数値が高い場合は、ALTやγ-GTP、T-bil(総ビリルビン)、ALP(アルカリホスファターゼ)など、ほかの血液検査データも考慮して判断しなければなりません。またASTの血中半減期(寿命のようなもの)は約17時間で、ALTの約47時間より短いため、病変の進行が早い病気の場合には、ALTに比べASTが優位に上昇します。たとえば、肝臓の細胞が急激に破壊される急性肝炎などではASTが優位に上昇してきます。しかし肝硬変や肝細胞がんでは急性肝炎のような急激な肝細胞破壊はありませんが、ASTが優位に高値となる傾向があります。これは肝硬変や肝細胞がんにより、正常な肝細胞が減少し、主に肝細胞に存在するALTが減少しているためです。上記のような疾患のほかに、ASTはマラソンや剣道などの激しい運動により、骨格筋細胞から逸脱して高値となることがあります。また、採血時に溶血すると赤血球細胞より逸脱し、高値を示すこともあります。有害物質を使用している対象者の場合は、有害物質による中毒や障害の可能性がないか確認をする必要があります。【対象者への説明のしかた】ASTの異常は肝臓の異常のほかに、心臓、骨格筋などの異常でも起こる可能性があることを説明します。問診により、肝臓の異常が疑われる場合は、原因がアルコール肥満によるものなのか、肝炎ウイルスによるものなのか、薬剤などによるものなのかを明らかにする必要があることを説明します。また、職域では有害物質が原因でASTの異常が認められることがあることも説明します。【対応方法】ASTが異常値である場合は腹部エコー検査や腹部CT検査などの精密検査を進めると同時に、飲酒習慣や運動習慣、職歴、現作業内容などの問診を行います。精密検査の結果と問診結果を総合的に判断し、治療が必要な場合は加療を開始し、原因の究明をします。個人の生活習慣に起因するものであれば、保健指導を行い、業務関連のものであれば、作業手順や作業環境の確認と改善を行います。

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る