近年、わが国では、メンタルヘルス不調者の増加や、労働者の高齢化による疾患およびそのリスクを持つ人の増加などから、治療が必要な労働者が増えている状況にあります。それと同時に、医療技術や治療方法の進歩により、従来は入院が必要であった疾患の外来治療が可能となってきたこと、また「不治の病」とされてきた疾患における生存率の上昇などから、病気を抱えていても働くことのできる人も増加しています。生産年齢人口の減少により労働力不足が深刻化しつつある今日において、働く意欲のある人が就労を継続することは、安定した労働力の確保という側面からも企業にとって重要であり、また個人にとっても、長く働き続けられることは、経済力や生きがいを持つという側面から重要です。 これらの背景から、治療と仕事の両立支援が社会的に重視されることとなり、厚生労働省は『事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン』『企業・医療機関連携マニュアル』を発行し、両立支援コーディネーターを養成するなど両立支援の充実に向けた対策を進めています。また、2019年4月より関連法案が順次施行されている「働き方改革実行計画」にも、「病気の治療と仕事の両立」が大きな項目として挙げられているのは、みなさんご存じのとおりです。 本増刊号では、これらのガイドラインなどをベースとし、事業場においてさらに実践的に両立支援を進めることができるよう、Part 1では両立支援の基本的な考え方と、現場で支援を進める際の関係者との連携や本人への支援のポイント、そして全般的に必要な知識について、具体的に解説していただきました。Part 2では、出会う頻度の高い疾患の知識をアップデートするために、臨床で活躍し、かつ両立支援にも携わっている専門の医師のみなさまにご執筆いただきました。また、コラムとして治療と職業生活の両立の当事者となった方からの体験談もお寄せいただきました。私たち産業看護職にとって、支援のポイント(Part 1)、疾患の正しい知識(Part 2)、当事者の具体的な体験やその心理(コラム)はどれも重要な情報です。本増刊号がみなさまのお役に立つことができれば幸いです。 2020年3月産業医科大学 産業保健学部 産業・地域看護学講座 教授 中谷 淳子
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