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12(264)整形外科Surgical Technique vol.10 no.3 2020はじめに ピロン骨折に関する文献や教科書には,どれもが口をそろえたように「外傷整形外科医にとって最もチャレンジングな骨折」と書かれている. 菲薄な軟部組織に囲まれた脛骨遠位関節内骨折であるピロン骨折は,軟部組織の取り扱いを間違えると,創離開や軟部組織の壊死によってインプラントの露出,深部感染,骨髄炎等が生じる.また,関節面は高度に粉砕していることが多く,骨折治療にも高い治療技術が要求される.綿密な評価,入念な計画で手術に臨んでも,さまざまな合併症に遭遇し,多くの症例で予期せぬ追加手術を余儀なくされる.Duckworthらの報告では40.2%の症例に何らかの追加手術が必要であったとしている1). 本稿では,ピロン骨折を治療する際に,患者本人,家族,診療チームに対して,この骨折の特徴や治療上の問題点,合併症に関し自信を持って説明できるように,過去の文献からピックアップした役立つ知識やデータを紹介する.ピロン骨折の名称由来 脛骨遠位部関節内骨折を一般的にはピロン骨折(pilon fracture),または脛骨天蓋骨折(plafond fracture)という.ピロン(pilon)とはフランス語で“擂粉木(すりこぎ)”という意味である.1911年にフランスの放射線科医であるDestotにより命名された.一方,plafondもフランス語で“天井(ceiling)”という意味であり,こちらは1950年にBoninによって命名された.両者ともに距骨が脛骨天蓋部に衝突し,あたかもすりこぎがすり鉢や天井にぶつかり関節面を打ち壊す様から命名されたことは想像に難くない. また,“pylon” fractureと記載している文献もあるが,世の趨勢は“pilon”もしくは“tibial plafond”である.受傷のメカニズム 大きく①交通事故や高所からの墜落による高エネルギー外傷,②回旋外力に伴う低エネルギー外傷(スキーなどのスポーツ),③近年増加傾向にある高齢者の低エネルギー外傷に分けられる2). 基本的には,距骨が脛骨天蓋に衝突して生じる1[オーバービュー]ピロン骨折の治療を始める前に中山雄平 Yuhei Nakayama帝京大学医学部附属病院外傷センター〒173-8606 東京都板橋区加賀2-11-1

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