130262006
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12(648)整形外科Surgical Technique vol.10 no.6 2020はじめに アキレス腱断裂は近年増加傾向にあり,スポーツ活動に関連した受傷は60〜80%程度とされている1).本邦ではバレーボールやバドミントン,テニスといった競技において受傷することが多い.一方,末期腎不全患者において受傷リスクが上昇するという報告2)もあり,またニューキノロン系の抗菌薬や副腎皮質ホルモンなどがアキレス腱断裂の危険因子であるという報告3,4)もある.スポーツ選手における受傷も多く,治療方法としては早期復帰を期待して観血的治療が行われることも多い.しかし,近年では厳密な治療プロトコルに沿った保存療法で良好な治療成績を収めたとする報告も散見される5-7).本稿ではアキレス腱断裂の保存療法に関して適応や一般的な治療方法,さらに社会活動やスポーツ活動への復帰を目指したリハビリテーションについて詳述する.アキレス腱断裂に対する保存療法の特徴 1968年にLea & Smith8)がアキレス腱断裂の保存療法に関して報告して以来,本邦においても数多く報告されている.保存療法では当然のことながら手術療法に特有の創部感染や神経損傷,手術創の瘢痕化といった合併症は見られない.過去には保存療法による再断裂率は手術療法に比べて高いとする論調が多くみられた9-14)が,近年では保存療法の成績は向上し,再断裂率も手術療法と差がないとする報告も散見される5,7,15).ただ,良好な治療成績を収めるためには患者のコンプライアンスと理解,医師と理学療法士間における密な連絡や厳格に管理されたリハビリテーションが必要との論調が多い16).保存療法の適応 アキレス腱断裂保存療法の適応に関する明確な基準はない.判断の材料としては受傷から治療開始までの期間,底屈による断端の接合,回復後の運動レベル,合併症などが挙げられる.受傷からの期間に関してはより早い段階での治療介入は理想的であるが,筆者は少なくとも5日以内を目安としている.断裂部の近接に関しては底屈により断端部が1cm以内まで近づく症例を適応としている(図1).しかし患者の強い希望がある場合には底屈筋力の低下や再断裂の危険性などの説明を十1[基礎編]アキレス腱断裂の保存療法谷口 晃 Akira Taniguchi奈良県立医科大学整形外科准教授〒634-8522 奈良県橿原市四条町840番地田中康仁 Yasuhito Tanaka奈良県立医科大学整形外科教授

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