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12(12)整形外科Surgical Technique vol.11 no.1 2021はじめに 上腕骨近位部骨折は,骨粗鬆症性骨折のなかでも,その治療方法の確立が待たれる分野である.一方,初期治療に奏功しなかった上腕骨近位部骨折続発症は,肩関節再建手術のなかでも最も治療が困難な疾患単位であり,治療には正確な予後判断が求められる. 上腕骨近位部骨折続発症は,大量の骨欠損や関節変形により,機能的な再建は困難で治療が困難な状況に陥ることがよくあり,リバース型人工肩関節置換術はその“最終兵器”とされる.本邦でも,2014年4月にリバース型人工肩関節置換術が承認された.骨折続発症分類は2006年と改訂版は2012年に発表された.リバース型人工肩関節置換術の先行国である欧米でさえ,その上腕骨近位部骨折続発症のサルベージは人工骨頭が主流で,人工骨頭を介さないリバース型人工肩関節置換術によるダイレクトなサルベージはつい最近の2014年,16年,18年に発表された. 本邦では「2019年度版新リバース型人工肩関節適正使用基準」1)で上腕骨近位部骨折の骨折続発症へ適応が拡大された.上腕骨近位部骨折続発症へのリバース型人工肩関節置換術の応用は,本邦がリバース型人工肩関節置換を封印していた間に,欧米人が多くの努力と犠牲を払い研究してきた分野である.上腕骨近位部骨折にprimaryにリバースを用いるべきか?の議論については,日本オリジナルな経験と知見をもとに築いていけばよい.しかし,後発の利を生かして,先人の欧米人の踏んだ苦い轍をもう一度同じように踏む必要はない.リバース型人工肩関節置換術の基礎知識 まず,通常の肩関節挙上について解説する.通常の肩関節挙上では,腱板で回転中心が固定され,三角筋で回転モーメントが発生する(図1A).腱板不全では,モーメントは発生せず,肩峰下インピンジを起こす(図1B).リバース型人工肩関節置換術では回転中心(center of rotation:COI)を内方化(medialize)し,同時に上肢を伸ばすこと(lowering of the humerus)で肩の挙上を再現する(図1C).1[オーバービュー]新リバース型人工肩関節置換術の骨折への適応拡大について今井晋二 Shinji Imai滋賀医科大学医学部整形外科教授/副病院長〒520-2192 滋賀県大津市瀬田月輪町

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