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6(6 ) YORi-SOUがんナーシング 2021 vol.11 no.11章東京大学医学部附属病院 乳腺・内分泌外科 助教/がん相談支援センター 副センター長 分田貴子アピアランス(外見)ケアとは~看護師さんに知ってもらいたいこと~がん治療により、手術あとや脱毛などの見た目の変化が起こります。がん薬物(化学)療法による頭髪の脱毛のみが注目されがちですが、実際は、皮膚の色素沈着や爪の変形、眉・まつ毛の脱毛、乳房の欠損など、さまざまな部位にさまざまな変化が生じます。想像以上の苦痛これまで、がん治療による見た目の変化は「しかたがないもの」とされてきました。しかし、国立がん研究センター調査(2009)によれば、「がん患者が治療中につらいと感じた症状」として、「脱毛」「肌の黒ずみ」など、見た目に関連する項目が数多くあがりました。さらに女性患者さんでは、「悪心・嘔吐」を抑え、「脱毛」が苦痛の第1位になるなど、見た目の変化が想像以上に患者さんの苦痛となっていることが示されました1)。日常生活の制限(社会的苦痛)筆者も、皮膚変化を伴う治療を受ける患者さんに「本当はどう感じていますか?」というインタビュー調査を行ないました。「治療のためだから、患者さんも納得のはず」という状況に疑問を持ったためです。実際は、「見た目より、治療が絶対に大事」という患者さんもいる一方で、大多数の人が「(見た目の変化が)本当は気になっている」と回答されました。さらに、「プールや温泉に行けない」「半袖が着られない」など、見た目の問題が、日常生活を大きく制限していることも明らかとなりました2)。この調査で、30名以上の患者さんのお話をうかがはじめにがん治療に伴う見た目の変化による問題い、患者さんの思い、そして、それを医師には告げていない事実を知ったことが、筆者が見た目の変化の問題に取り組むきっかけとなりました。がんの罹患率は増加する一方で、治療成績は向上し、がんと診断されても元気に暮らせる期間は長くなっています3)。抗がん薬や放射線治療も、入院ではなく、外来での治療が基本となってきました。「社会で暮らしながら、働きながら」治療する機会が増えるなか、厚生労働省による「第3期がん対策推進基本計画(H30)」においても、治療による見た目の変化に対するケア(アピアランス〈外見〉ケア)は、取り組むべき課題の一つにあげられています。国立がん研究センターによると、アピアランスケアは「医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化を補完し、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」と定義されています4)。このような「苦痛を軽減するケア」のためには、まず、見た目の変化を「しかたない」とせず、見た目の変化が患者さんの苦痛につながっている可能性に目を向ける必要があります。さらには、たとえば同じ脱毛でも、精神的にショックという人もいれば、副作用と受容していても、仕事のためにウィッグが必要という人など、患者さんによって悩みの内容は異なり、必要なサポートも異なることへの理解も重要です。がん患者さんを取り巻く背景アピアランス(外見)ケアとは?

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