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医療と介護 Next 2017 秋季増刊8てくる。 ではその「里山原理」とは何か。 大きく分ければ、第一は、食料・水・燃料という生活に絶対に必要なものを、ごく一部でいいので高齢者自身が自給自足していること。第二は、人間関係の間によく言えば絆、悪く言えばしがらみが多くあり、その結果として孤立し孤独のうちに亡くなっていく高齢者が少なくなること、この2点である。いずれの点も、お金だけが頼りの老後から、お金以外の点でも頼みになるもののある老後へと、いざというときの生活のバックアップ手段を増やし、安心安全を拡大するものとなっている。 まずは、食料・水・燃料の(ごく一部の)自給自足だ。過疎の農山村地帯で、飢えて苦しんでいる高齢者にお会いになったことがあるだろうか? 都会の元勤め人に比べれば、受け取っている年金額は明らかに少ないはずなのに、お金に困っている感じが少ない。なぜかと言えば、多くの高齢者が小さな田畑を持っていて、野菜や米を一部自給できているからである。野菜は少し作るとすぐ獲れすぎるので、これをご近所におすそ分けしていると、代わりに別種の野菜や食品がお返しに戻って来る。水は多くの家にタダの井戸水があるし、元気な高齢者の場合には薪も自給していてその分光熱費も払っていない。年金不安というのは、死ぬまですべてをお金で調達しなければならない都会の高齢者の話であり、田舎に行くほど、都会に比べ月に何万円ものレベルでお金のかからない生活を楽しく送っている高齢者が増えていく。 だが都会にも、たとえばご近所の市民農園に土地を借りるという道はある。都心のマンション住まいでも、プランターによるベランダ菜園は持てる。収穫量はごく少なくても、食料を自分の手で生産する行為というのはとても心を元気にするものだ。ハーブ1種類でも、余ったものをご近所におすそ分けするだけで、多くのお返しが来るだろう。空き家の土地を農園に とはいっても大都市に残されている農地は、人口規模に比べれば微々たるものだ。今後急増する高齢者の多くが、大なり小なり土に親しむというのはとても無理筋であると思われるかもしれない。だがそうでもない。なぜなら大都市圏ではいま、空前の数の空き家が発生しているからである。 4年前(2013年)の総務省調査の数字だが、東京都の空き家率は11%だった。ちなみに空き家率全国1位の山梨県は17%、全国平均は13%だったが、これをもって東京の空き家は少

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