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はじめに 1999年から2000年頃に深刻な医療事故が発生し、それを契機に、医療界でも積極的に医療の質向上活動が行われるようになりました。私自身は、それまで工業製品の質マネジメントを専門としてきましたが、それ以降、医療の質マネジメントにも取り組むようになりました。 当初は事故防止を中心に研究していましたが、病院でも工業界で行われてきた、質のよい製品・サービスを提供するための仕組みである質マネジメントシステム(Quality Management System:QMS)を取り入れることが絶対に必要であると思っていました。ただし、工業と医療では異なる点がありますから、医療に合ったQMSはどのような形なのかを研究するために、東京大学名誉教授の飯塚悦功先生を主査、東京大学特任教授の水流聡子先生と私が副査となり、2007年にQMS-H研究会を立ち上げて、10病院の医療者の方々とこの課題に取り組むことにしました。本書の内容は、その研究会での主要な成果の1つです。 今日では、病院でも質を向上させるための改善活動は、当たり前のように行われるようになりました。ただし、その成果が十分に生かされている病院と、そうでない病院があります。改善意欲に差があるわけではありません。その差は、“標準化”、そしてその基盤となる“文書管理”が、きちんと行われるかどうかで決まります。成果を生かすには、改善内容を蓄積していき、教育し、周知徹底することが必要ですが、そのためには改善した内容が、手順書や帳票の形で文書化されていることが不可欠なのです。 QMS-H研究会では、医療での文書管理がいかにあるべきかについて、重要な課題として約10年にわたり取り組んできました。その間に、文書管理という考え方が医療者にとってわかりづらい概念ということも、わかってきました。その点も十分配慮して、文書管理の意義は何か、どのように進めていけばよいのかについて、平易に解説することを心がけました。本書は、医療の質向上活動に大きく貢献すると確信しています。 2017年6月 早稲田大学理工学術院 教授 棟近 雅彦 3 3
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