本書は、医療のリーダーシップ論の入り口に過ぎません。リーダーシップ論は広く奥深く底なしで、一生涯を費やしても終わらない分野だと思います。文献はそれこそ山ほどあります。次の段階に進みたい人のために、2つだけ重要文献を紹介します。 一つめが、金井壽宏『リーダーシップ入門』(日経文庫、2005)です。金井は日本のリーダーシップ研究の権威といえる存在です。この本には入門という謙虚な名称がつけられていますが、内容の濃さは教科書以上です。金井はこれまでのリーダーシップ論を下敷きに、日本の成功した経営者の持論も合わせて検討しました。少し前の出版になりますが、これからリーダーシップを学ぼうという人にとっての必読書です。 もう一つは、コミベズ『リーダーシップの探求―変化をもたらす理論と実践』(早稲田大学出版部、2017)です。最新のリーダーシップ教科書の日本語訳です。リーダーシップの全部が網羅されている、と言っても過言ではありません。 私は外科医から、医療安全の研究と実務にたずさわるようになりました。そして医療安全とは組織をマネジメントすることであり、結局はリーダーシップの問題であると考えるようになりました。医療安全はガバナンス(相互作用)の一種なので、ボトムアップで行うことはできません。トップダウンでも理念を末端まで浸透させることは困難です。組織の全員がその重要性に気づいて、全員がみずから主体的に行動しなければならないからです。まさに現代の「関係性の」リーダーシップそのものです。 私が勝手に名付けた「講演会場の埋まり方の法則」があります。それは「聴きたいコンサートは最前列から埋まるが、聞きたくない安全講演会は最後列から埋まる」というものです。組織の全員が能動的になり、リーダーシップが共有されるようになってこの法則が過去の笑い話になることを祈っています。2019年7月千葉大学医学部附属病院 医療安全管理部 教授相馬孝博
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