3はじめに 人が2人以上いれば、必ず何らかのコミュニケーションが発生します。どのような仕事をする人か、どのような背景をもつ人か、どのような考え方をする人か、その2人がまったく同じ条件をもつということはあり得ません。だから、発信者が「きちんと伝えた」と思っても、受け手は「聞いていなかった」「わかったつもりだった」「何を言っているのかよくわからなかった」といったことが起こってしまうのです。こういったことは、日常生活の中でもよく経験するのではないでしょうか。 医療の現場においてコミュニケーションは常に課題です。医療従事者同士や、患者さんとのやりとりにおいて、事の大小によらず、伝達したことがうまく伝わらずに思ってもいなかったような反応が返ってきたり、ミスに発展したりすることは誰もが経験していると思います。そんなとき、みなさんはどのように捉えるでしょうか。「私の伝え方(聞き方)に問題があった」と考えて次からは別の伝え方(聞き方)を工夫し、経験を積むことで「コミュニケーションの達人」になっていく方もいるでしょう。 もちろん、そのような個々人の気づきと小さな努力は欠かせませんが、経験から個人的に努力するだけでなく、「どうしてコミュニケーションエラーが起こるのか?」を科学的に分析し共有することで、組織的にコミュニケーションの問題を解決していくことはできないでしょうか。 当書籍では、コミュニケーションエラーを心理学的に解説し、現場から寄せられた事例を基に解決方法を探ります。心理学の専門家である松尾太加志先生に基本的な解説と事例に対するコメントをつけていただきました。改めて、人がいかに自分中心になりがちか、日々の言動を振り返るよいきっかけになると思います。 ぜひ組織のみなさんで読んでいただき、みながコミュニケーションの達人となって、より良い医療を提供できる一助になれば幸いです。2019年7月坂本すが
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