医療安全研修の「い・ろ・は」東邦大学医療センター大森病院 医療安全管理部渡邊正志 なぜ研修をしなくてはいけないか? 職務上必要とされる知識や技能が不足していれば、結果的にその業務の遂行は困難になります。「研修」とは、職務上必要とされる知識や技能を高めるために、ある期間特別に勉強や実習をすることです。研修には、多くの人とともに行うものから、教室レベルで行うもの、マンツーマンのものもありますし、自分だけで行う自己研修やeラーニングというのもあります。医行為の研修であれば、通常、教材があり、具体的な手技のほかにその場のルールも教材に含まれ、これらを学んで習得しなければ、患者に被害がおよぶことが想定され、結果的にはその医行為は続けられなくなります。1つの行為に関する研修項目はとても幅広い〜採血の例 具体例として、採血という医行為の研修を考えてみましょう。採血は針を静脈に刺して、必要な量の血液を採取するという医行為ですが、病院業務として行う場合、一連のその場のルールが付加されています。 院内ルールを守って採血をするためには、指示にそってスピッツを準備、スピッツに患者のIDや名前を記載、採血量の計算をして、駆血帯や酒精綿、針とシリンジ、手袋や針捨て容器、止血用のテープの準備が必要です。端末で患者認証をして採血する場合は、認証機、医療者認識のカード、スピッツ認識のバーコードも必要です。 また、患者に対する挨拶のしかた、名前の聞きかた、「アルコールの過敏はないですか?」「チクッとします」など、患者の不安を取り除くための声掛け、「誠にすみません、血管が逃げてしまいました」など、採血を失敗したときの声掛けや患者とのコミュニケーション方法も知らなければなりません。患者に「何の採血なの?」と聞かれたら、答えられなければなりません。 患者間違いは一定の確率で起こります。当院でもA患者とB患者の採血結果が誤って配信され、退院可能な患者さんの入院が延びた事例を経験しました。採血スピッツが入れ替わったのが原因でした。また、医師が認証行為をせずに採血を担当し、採血スピッツが入れ替わって血液型が間違って配信されたという他院の例もあります。 採血後の皮下血腫も一定の確率で発生し、これが原因で患者が他院の外来を受診し、その診療費をどうするかなども、よく耳にします。頻度は少ないですが、採血による神10
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