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10 看護は,あらゆる年代の個人のみならず,その家族も対象として,健康を保持増進すること,疾病を予防すること,健康を回復すること,苦痛を緩和すること,その人らしく生を全まっとうできるように援助を行うことを目的としている1).例えば,看護場面から考えてみると,患者の看護を実践する中で家族と出会い,入院してきた患者を理解するために家族から情報を収集する,家族に患者の入院生活について説明する,家族の不安を緩和する,病状を理解し療養法を継続できるように家族に教育する,在宅生活の準備について話し合うなど,さまざまな場面で,患者の看護を実践しながら,家族に対しても看護アプローチを展開している.これらの中には,「患者のための家族への看護アプローチ」が多く含まれている.しかし,「患者のための家族への看護アプローチ」と家族を看護するということは異なることを理解し,「家族のための家族への看護アプローチ」を実践することが求められている. 家族看護エンパワーメントモデル2)は,家族に対する看護者の温かいケアリングの実践をモデルとして示したものであり,家族を看護の対象として位置付け,自身の力でさまざまな状況を乗り越えることができる集団ととらえている.さらに家族看護とは,家族が本来もつ力が発揮されることを信じ,家族らしい生活の実現に向けて,家族の力の発揮を支える,すなわち家族のエンパワーメントを支えることであると定義付けている.看護者は,家族自身がもつ力を発揮しづらい状況にある家族に対して,その状況を患者のみならず家族全体に起こっている体験として理解を示しながら,家族が本来もつ力が発揮されることを信じ,家族らしい生活の実現に向けて,家族をエンパワーするアプローチを展開することが重要である. また,家族は家族としての生活や経験の積み重ねにより,その家族固有の歴史を形成しており,それは現在のその家族の在り方へとつながっている.したがって,家族看護を展開する際には,その家族の歴史も踏まえて家族の全体像をとらえ,家族像を形成することが重要となる.家族像とは,家族員や家族に関する情報を家族全体として統合し,家族の歴史を踏まえて,家族の現状を生き生きと描写した像であり,家族に関する客観的なデータを基盤とし,臨床判断を駆使して家族に関する推論や仮説を立て,これらを確かめながら現実の家族の全体像を描いていくことで形成される3).家族像を形成することは,現在の家族の姿を,個−家族−地域社会のつながりの中で,また過去から現在,そして未来への時間軸の中で,多角的にとらえていくことであり,それによって真にその家族に合ったアプローチを見いだすことができる. そこで本章では,家族看護エンパワーメントモデルに基づき,看護の対象である「家族」とはどのような特徴を有する集団なのか,理論に基づく家族のとらえ方,家族を看護の対象とした「家族のための家族への看護アプローチ」すなわち家族を看護することについての基本的な考え方を述べる.エンパワーメント力を発揮することを意味する.家族のエンパワーメントとは,家族自らがもてる力を発揮することを意味する.

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