本書,『家族看護学 家族のエンパワーメントを支えるケア』では,家族を主体的な存在としてとらえ,「家族は自身の力でさまざまな状況を乗り越えることができる集団であり,家族が力を発揮できるように,健康問題に積極的に取り組み,健康的な家族生活が実現できるように援助する,すなわち家族のエンパワーメントを支えることが家族看護である」と考えています.この考え方は,家族に対する看護者のケアリングの実践を一つのモデルとして示した「家族看護エンパワーメントモデル」に基づいています. 1章では,家族を看護するということについて,現代の家族の特徴や,家族を全体としてとらえて支援する家族システム理論,家族を発達する存在として支援する家族発達理論,家族をセルフケア機能を有する存在として支援する家族のセルフケアを取り上げています.2章では,家族の病気体験を理解すること,家族の語りを共感的に傾聴し,家族の立場に立って読み解き,理解していくことについて取り上げています.3章では,家族との援助関係を形成すること,家族とパートナーシップの関係をつくる上で看護者に必要な力,基本姿勢について,事例を通して具体的に示しています.4章では,家族への看護アプローチとして,家族のセルフケアの支援,家族の役割調整,家族関係の調整・強化,家族内コミュニケーションの活性化,家族の対処行動や対処能力の強化,親族や地域社会資源の活用を取り上げ,アプローチについて具体的に示しています.5章では,家族のエンパワーメントを支えるケアについて,専門看護師の方々を中心に,家族員の病気の急変,在宅移行期,長期間の病気療養などを体験している家族の事例を用いて,1章から4章までの家族看護の考え方を活用して,具体的に示していただきました.災害が続いている今日,被災された家族のエンパワーメントを支えるケアについても取り上げています. 家族の多様化が進んでいる今日,標準的な家族を基準として目の前の家族をとらえるのではなく,それぞれの家族を独自の存在として多面的にとらえ,その家族のもつ力を見極め,力の発揮を支える―家族のエンパワーメントを支えるケアが求められていると考えます.看護学生の皆さまが,「家族の1人が病気になったとき,家族はどのような様子なのだろう?」「家族のことを理解するには何を手掛かりにしたらよいのだろう?」「実習で患者さんの家族と関係性を結ぶにはどうしたらよいのだろう?」「家族の力の発揮を支えるってどういうケアなのだろう?」などと探究する際に役立つように,具体例を豊かに盛り込んだ構成となっています.臨床の場で活躍されている看護者の皆さまにも,家族のもつ力に注目し,家族のエンパワーメントを支援するケアという視点から,広く活用していただければ幸いです.中野 綾美瓜生 浩子はじめに
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