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iiiはじめに 呼吸療法のセミナーで「何が嫌いか、何がわからないか」と尋ねると、多くの参加者が「血液ガスと酸塩基平衡」と答えます。必要不可欠な知識でありながら、難解で途中で挫折しやすい項目です。 一方、講義する側にとっても「血液ガスと酸塩基平衡」は初心者に上手にわかりやすく解説することが難しい項目です。尾塾でわかりやすく講義をしようと努力をするなかで気付いたことがあります。苦手意識を持つ受講生に共通する点は、血液ガスや酸塩基平衡を数式や抽象的なものとしてとらえている点です。つまり体内で起こっていることを上手くイメージできないのです。 そこで本書は、難解だと感じる血液ガス・酸塩基平衡をできるだけ身近にある題材を使って、読者が具体的にイメージできるようにさまざまな創意と工夫を凝らしました。例えば気体である酸素や二酸化炭素は具体的に把握することが難しいと思われがちですが、実は私たちの身の回りは気体(ガス)の反応で満ちあふれています。高所では空気が薄くなり、超高層ビルのエレベーターに乗れば耳がツーンとなり、換気の悪い作業現場に行けば死亡する危険にさらされます。酸塩基平衡についても同様です。ソーダに含まれる重炭酸イオン(重曹)は血液内にも存在し、ソーダ水のなかで起きる反応は血液の緩衝反応と同じものなのです。 また、数学や化学を忘れてしまったという方のために、毎日使うお金の計算「銭勘定」などを例にとってできるだけ平易に解説し、計算式と解法はできるだけ詳しく段階的に記載しました。ある程度理解されている読者には、そこまでの解説は不要であるという叱責をいただくものと覚悟しておりますが、あえて詳細に解説しました。逆に、初心者が混乱しそうな部分には、「ちょっとアドバンス」という表示を付けて区分しました。この「ちょっとアドバンス」の部分は研修医レベルの内容であり、本書は医師レベルでの入門書としても活用できる内容になっています。 本書によって苦手意識がなくなり、血液ガスと酸塩基平衡について理解が深まると、自分自身の体内で今まさに営まれている生理機能の素晴らしさに必ず強い感銘を受けるようになります。事実、酸素が効率よく利用され、酸塩基平衡によって酸が適切に処理される機序には、いくつものノーベル賞研究が関与しています。 本書は単に「血液ガスと酸塩基平衡」をわかりやすく理解するための参考書として執筆したのではありません。著者が読者にもっとも期待するところは、「血液ガスは面白い」「自分たちの体内の酸塩基平衡機能は素晴らしい」と感じてもらうことであり、生体が持つ素晴らしい呼吸の能力に感動していただくことは、著者の最大の誉れです。 最後に本書の執筆にあたり監修を快諾していただきました諏訪邦夫先生、わが師である丸川征四郎先生に心より御礼申し上げます。また、本書の内容をチェックして貴重な数々の意見を頂戴し、難解な部分を指摘していただいた当院の看護スタッフやリハスタッフ、研修医の皆様にも心から感謝申し上げます。尾孝平

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