非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation;NPPV)がわが国に普及し始めて約15年になります.NPPVの歴史を振り返ると,欧米では睡眠時呼吸異常の研究と治療,神経筋疾患などの慢性呼吸不全の人工呼吸の方法として,1980年代より導入され,現在ではほぼ確立した治療法となっています.一方わが国では,一部の先駆的な施設は1990年頃から取り組みを始めていましたが,一般には1995年頃から徐々に導入が試みられるようになり,本格的な普及は2000年前後以降であると考えています.しかし現在でもNPPVの使用に関しては,施設間格差がかなりあり,NPPVに習熟した施設がある一方で,ほとんど使用していないという施設も少なからずあります.そういった施設のスタッフから話をうかがうと,「やり方がわからない」「うまく導入できなかったのでそれ以降していない」などのコメントをいただくことがあります. 当センターでは1993年頃からNPPVの導入を開始しましたが,当初はなかなかうまく導入できず試行錯誤の連続でした.うまくいかなかった期間は“針のむしろ”状態で,当時の私の背中に突き刺さっていた冷たい視線の感覚を今でも覚えています.スタッフからはNPPVは「患者には非侵襲的だが,医療者にとっては侵襲的だ!」という意見まで飛び出し,本気で“NPPVからの撤退”を考えた時期もありました.しかし,その後も粘り強く導入を試みると同時にスタッフの教育を行うことで,徐々にうまく導入できるようになり,現在に至っています. 本書はそういった経験をもとに,『はじめてのNPPV』というタイトルが示すとおり,本療法にほとんどなじみのない,あるいは導入がうまくいかず挫折している方を念頭に置いて執筆いたしました.本書がNPPV導入のきっかけになり,さらなる普及への一助になれば幸いです. 最後に本書の企画から出版まで,支援と助言を惜しまれなかったメディカ出版,なかでも直接ご担当いただき,忍耐強く原稿を待っていただいた鈴木陽子氏に深甚の謝意を表します.2012年11月石原英樹
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