T160061
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はじめに 重症心不全に対する種々の薬物療法の有効性が明らかにされてきているが,いまだその効果には限界がある.このような内科的治療で改善が期待できない,あるいは効果が認められない重症心不全患者に対して,実際どのような治療方法をわれわれは示すことができるであろうか. もちろん,1つは心臓移植であろう.しかし,心臓移植は全世界的にドナー不足という大きな問題を抱えている.したがって,患者が希望してもすぐに受けられるわけではない.特にわが国においては,1997年に臓器移植法が制定された後も,その厳しい運用方針もあって脳死ドナーが非常に得にくい状況であり,2010年に法改正により世界と同等の基準になったにもかかわらず,現時点では希望しても心臓移植を受けられるまでに平均1,000日以上の待機が必要である.もちろん,ドナーの問題だけでなく,心臓移植のレシピエントとなるには年齢の制限もある(現時点では65歳未満).しかし,そのような厳しい条件の下でも心臓移植の適応ありと認められ,かつ心臓移植以外の治療方法がない患者も数多く存在する.心臓移植待機患者の心不全急性増悪に対しては,補助人工心臓が心臓移植までのつなぎとして用いられることが多い.1970年代から開発が始まった補助人工心臓は,もともと永久使用を目的としていた.しかしながら,1980年代半ばからは,心臓は切除せず残したままで,補助のみを行う左室補助人工心臓(left ventricular assist system;LVAS)が心臓移植へのつなぎとして盛んに臨床応用されるようになった.また近年,補助中に自己心機能の回復を認めLVASから離脱する症例の報告も増えてきており,心機能回復へのつなぎとしての使用や,そのメカニズムの研究も盛んとなってきている.初期には拍動流型のポンプが中心に用いられてきたが,最近では,軸流ポンプや遠心ポンプなどの小型で高性能の植込み型ポンプが数機種において保険償還され,大きな臨床的有効性が示されるに至っている. 本書では,わが国における補助人工心臓を用いた治療の現状をはじめ,機械的補助循環法全般や新しく使用されるようになった両室ペースメーカなどのデバイスも含めて概説しており,重症心不全に対する治療や看護の知識として役立てていただければ幸甚である.2016年8月澤 芳樹

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