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11第1部 先天性心疾患概論   2胎児─新生児の循環と病態(3.5L/min/m2). 胎児期中期の肺への血流は,総拍出量の3〜4%であるが,その後しだいに増加し,出生前には10〜20%となる.6.5L/min/m2の総拍出量うち,胎盤(40%)と肺(17%)への血行を除いた43%の血流,2.8L/min/m2が胎児の身体を灌流する.これは生後の心拍出係数3.5L/min/m2よりやや少ないが,胎児では脳,腎臓,肝臓,心臓などへの血流分布が多い.また,胎児ヘモグロビンは2,3-diphosphoglycerate(2,3-DPG)との結合が乏しい.2,3-DPGと酸素はヘモグロビンとの結合について競合するので,胎児赤血球は酸素との結合が強く,比較的低い酸素分圧でも酸素飽和度は高くなり,低い酸素分圧状態での酸素供給に有利となっている(表1).胎児血の酸素飽和度 臍帯静脈の酸素飽和度は80%,酸素分圧は34mmHgくらいである.下半身や上半身から還ってくる静脈血の酸素飽和度は40%である.下大静脈の心房入口部では臍帯静脈血と混合するので70%に上がる.その血液が大部分卵円孔を通って左房に行くので,左室や上行大動脈の酸素飽和度は65%となる.一方,右室や肺動脈の血流は,上半身からの酸素飽和度40%の血液の大部分と,下大静脈からの70%の血液とが混合して55%となったものである.その血液は大部分,動脈管を通って下行大動脈へ流れる.脳へは酸素飽和度65%(分圧28mmHg)の血液が,下半身へは酸素飽和度60%の血液(分圧20mmHg)が供給される(表1).動脈管 胎児期には動脈管は開存しており,出生後まもなく(約12時間後には)閉じる.胎生期の動脈管の開存と出生後の閉鎖の機構は単純ではなく,複数の機構が関与している.出生前の動脈管開存は,低酸素血症,動脈管や胎盤が産生するプロスタグランジンE2濃度高値,動脈管による一酸化窒素産生などにより成立する.出生後の動脈管閉鎖は,呼吸開始による血液酸素分圧の増加と血中プロスタグランジンE2濃度低下による(表2).動脈管が酸素で閉じる機序は,酸素感受性カリウムチャネルの存在や,酸素でエンドセリン産生が増加し,動脈管の収縮をきたしている可能性がある.1動脈管依存性心疾患 動脈管が開いていないと生後生存できない先天性心疾患がある.左心低形成症候群や大動脈縮窄複合,大動脈弓離断症などである(図2).これらの疾患では,生後酸素分圧が上昇して動脈管が閉じると,ショック状態に陥ったり,死亡したりする.純型肺動脈閉鎖症や側副血行のない肺動脈閉鎖では,動脈管が閉じると低酸素血症となり生存できない(図3).これらの疾患では動脈管を開いた状態に保つために,プロスタグランジンE1を点滴静注する.2動脈管開存症 逆に,生後動脈管が開いたままだと心不全に陥ってしまう場合もある.上記の合併心疾患がなく,生後動脈管が大きく開いたままの場合である.出生後,肺血管抵抗が下がる表1│胎児動脈血の特徴●酸素飽和度60〜65%●胎児ヘモグロビンは酸素供給を増加させる表2│動脈管開閉を決定する因子1.出‌生前動脈管開存‌低酸素血症‌プロスタグランジンE2濃度高値一酸化窒素産生(動脈管)2.出‌生後の動脈管閉鎖‌呼吸開始による血液酸素分圧の増加‌血中プロスタグランジンE2濃度低下

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