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人間誰でも、うまくいったことは大きな声で自慢しますが、都合の悪いことは小声で話すか、場合によってはごまかしてしまおう、そう考えるものです。われわれが日々暮らす医療の世界も例外ではありません。新しい薬、術式、他人とは異なる手技。これらに、われわれ医者や看護師さんは心躍らせます。確かに、それはそれでとても大切なことかもしれませんが、残念ながら「失敗談」や「トラブル撃退体験」などは、ほとんど発表・出版されません。手術の業界でいえば、術後合併症がまさにこれにあたります。外科医はこの話題にあまり触れたがりません。誰でも経験するものです。まったく合併症を経験したことのない外科医など存在しません。しかし、それらを赤裸々に語ることはめったにありません。「あの先生は技術が足りないんじゃないか?」とか「よくあんな恥ずかしいこと発表するよね」とかいった心ない誹謗中傷に晒されることを恐れてか、単純に恥ずかしいだけなのかはわかりませんが。おそらく、これまで「ドレーン」や「瘻孔管理」などについて詳しく記した書物が少ない理由はそこにあると思います。だって結局、術後合併症がなければ「ドレーン」なんて必要ないからです。縫合不全を経験し、おなかを痛がり、高熱にうなされる患者さんをみて、初めて外科医は本当にドレーンの大切さを認識します。この話題に触れることは、そういうつらい体験や恥を少なからず表現することに直結します。いっぽう、自分の話はしたがらないクセに、他人の合併症には興味津津です。外科医は基本的に少し根性が悪いのでしょう。他の先生が執刀したはじめに

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